当事者の課題一つひとつに丁寧に取組んでいく

山内)先日、総務大臣に対しDV等被害者支援措置としての住民基本台帳閲覧制限等の期間制限の削除等を求める申し入れを、党の総務部門とジェンダー平等推進本部とでおこなってきました。私がDV被害者の支援に関わり始めた原点はここにあるのですが、被害に遭った女性とお子さんが、加害者である元配偶者から逃れて離れて住んでいて、その住所を知られたくないので閲覧制限をかけていたにもかかわらず、そうした事情を知らない市の職員が、血のつながっている父親だからとうっかり住所を教えてしまったという問題がありました。そういう命に係わる重要な問題でありながらこれまで十分な措置がなされてこなかった。今回、岡村弁護士に多大なご協力を得ながら党の政務調査会と国会の調査局と共同で文書を作成しました。声を上げてくれた当事者、支援する弁護士、NPO市民社会の方、みんなで一緒に作った申し入れ書です。こうしたことをいろいろな分野でやっていくことで、少しずつ改善を積み重ねていきたいと思っています。

山内)当事者から感謝のメールいただくこともあるのですが、本当に切実な思いで、一度などは泣き崩れられて、言葉にならないくらい感謝の気持ちを表してくれた方もいらっしゃいました。こうした問題に一つひとつ丁寧に取り組んでいくことが、立憲民主党らしさだと思っていますので、ご紹介させていただきました。

岡村)支援措置についても地域差があって、前回の記録を見てすぐ対応してくれる人から、「一年間何も起こっていないのに支援措置を延長する意味があるのか」というところから詰めてくる人もいる。直近までの支援措置を取っているから安全・安心が保たれているにもかかわらず、一年間何も起こっていないということは、もう安全なのではないかという誤解を生んでしまっています。そういう当事者の声を私が聞いて、山内先生にお伝えしたら、すぐに実行に移してもらい、数カ月のうちに総務省に申し入れをしてもらい感動しました。

 居場所を隠して逃げるのが支援措置で、居場所が判明している人には保護命令、どちらもDV被害者を守る措置なので、今日の座談会で両面の話ができて期待を持ちます。ありがたいです。

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総務省を訪れ宮路拓馬大臣政務官に申し入れ。右端が山内康一衆院議員、左端が打越さく良参院議員。

命の問題だと認識しないとミスが繰り返される

打越)総務省への申入れの場では、要望1の閲覧制限については例外的なものだから、都度申し出をすることは被害者にとっては負担であっても必要だとおっしゃっていて、そこが平行線だったのが残念でした。

井上)そもそも閲覧を認めることが必要なのかという問題でもあると思います。

山内)これは法改正の必要もなく、課長通達くらいで済む話だと思います。よほどのことがない限りはあらかじめ継続で設定してしまえばいいだけのことです。当事者の方に言わせると、毎年役所に行って事情を説明して、担当者が変わればまた同じ説明をし、そのたびに思い出すことでトラウマになる。精神的な拷問でひどい話です。なぜできないのかさっぱり分かりません。

打越)要望事項2では、自治体への支援として(1)研修・マニュアル整備への支援(2)連携強化への支援(3)情報システムでの対応への支援──を盛り込みましたが、情報システムもデジタル社会と言いながらヒューマンエラーが相次いでいます。こうした状況を何とかしないといけません。

井上)命にかかわる問題だと認識していないからだと思います。DV自体についての理解や制度本来の意義を理解が足りないため、緊張感がなく、ミスが出るのではないでしょうか。ジェンダー・メインスリーミングの観点から、DVの直接の担当者以外の市役所全体の職員が理解することが重要です。

非典型の支援ができる法制度を

山内)最後に、DV支援、ジェンダーの問題について井上先生と岡村先生から立憲民主党にどのようなことを期待しているかをお聞かせください。

井上)この間打越さんを通して、皆さんと一緒に勉強する機会をいただき私自身も勉強になりました。それが今回の立憲の改正案に盛り込まれていてうれしく思います。今後とも一緒にやっていきたいと思います。

井上)1点目としては、精神的DVの問題。これをどう扱っていくかが次の改正の山だと思います。私たち研究者も研究会などで外国の制度を見ながら、日本の制度に着地させていくやり方を模索していきますので、引き続き協力して取り組んでいきたいと思っています。

 保護命令については、せっかく現行法でも「審尋なし」で迅速に対応できることになっていますので、「審尋なし」で発令するための具体的な要件などをガイドラインなどの形できちんと作っていく方向にもっていくことが必要です。例えば、弁護士会やシェルターネットなどの被害者支援の現場を知っている団体が試案を作るなどの動きがいるかなと思っています。

 2点目は、行政法的な観点からの改正です。計画行政という手法と自治体間格差に関する点です。私は以前より、計画行政という手法を、命に係わるDV施策の領域でとることを批判してきました。そしてこれを変えない限り、自治体間格差は解消しません。とはいえ、計画行政という手法自体は、それぞれの自治体や地域の特性をいかしながら、施策を進めることができるという点では、有効な手法ですし、これを活かす形で、改正をすすめるべきと考えています。具体的には、各自治体が計画や施策の中で盛り込み・展開すべき最小限の内容を、必要的記載事項として指定してはいかがでしょうか。そして、国はそれらの事項については、積極的に関わり、場合によっては指導・技術的指導を行うことが可能になります。

 DV施策では、福祉との協働も必然的です。どのように協働するかは都道府県や市や町により、さまざまで良いと思いますが、国が主導して各都道府県や市町の施策や計画を⽐較したり、施策担当者が学び合う、助⾔しあう場やシステムができるといいと思います。今も、1年に1回集まりがあるようですが、もっと実践的に施策を振り返る機会があるといいです。

 また、現在すでに設置されている配偶者暴⼒防⽌センターがその地域のDV施策の拠点施設だということを法律に明記していただきたいです。婦人保護事業のための施設を副次的に利用している現在の体制では、「他施策他制度」、「他の制度で全部だめだったら受け⼊れる」という形で、DV被害者支援が実質的に空洞化してしまっています。拠点施設が多施策多制度ということはあり得ませんので、拠点施設はここだと明確に指定し、責任をもって施策展開ができるようにすることだけで、DV施策の現場は、大きく違ってくると思います。これは、DV防止法からアプローチとともに、婦人保護事業の側からのアプローチも同時に実施することが必要です。

 さらに、同時に第三者により構成される施策の評価を可能にするための仕組みも必要です。現在、男女共同参画計画の中では苦情申し立て制度を持っている自治体も多いので、これを活用するのも良いかもしれません。

 これらの行政的な観点からの改正は、施策としては地味かもしれませんが、支援の現場や実態を大きく変えると思います。

 3点目としては、先ほど申し上げた、被害者の子どもに対する支援の強化です。DVは、DV防止法だけでなく、民法の家族法、刑法の性犯罪、スト-カー規制法、いろいろな法律に関わってきますので、そういうところにも目配りしながら、子どもを含めた家族や親しい者に関係する諸制度全体を、DVケースに即応できる形で見直す必要があります。そして「被害者が逃げなくてすむ支援」、それぞれの事情や多様なニーズに対応した非典型の支援が可能になる制度を目指したいです。

精神的DVの評価を正すことが必要

岡村)今日は井上先生の視点の広い話と、政治家は制度、法律を変えていけるということのお話を聞けて、とても勇気をいただきました。制度自体を変えることのできる議員と連携できることはとてもありがたいです。

岡村)私からは主に2点。精神的DVないし性的DVのような非身体的暴力が、実際に被害者の心を壊しているということをお伝えしたいです。学校のいじめや職場のパワハラの問題を事件としてやっていますが、それは精神的暴力が多いと思います。無視をされるとか悪口を言われる、変なあだ名をつけられるといったことで人は病んでいきます。大人のパワハラも身体的暴力を伴うものよりも、言葉のパワハラが多い。家族だけがなぜ身体的暴力を中心に理解されているのかは理解できません。実際には精神的DVで心身は壊れていきますから、それに即した形で立法しなければいけない。DV防止法の定め方についても、身体的DVを精神的DVに準用して拡大していくべきというより、もとより重要な精神的DVを軽く扱ってきたことが問題だと思います。精神的な暴力について、学校や職場と比べて、家庭で軽く扱われてきたと思っています。家庭のDVの認識をただすことで、学校のいじめや職場の暴力、ハラスメントがなくなっていくかもしれない。社会におけるハラスメント、人が人を支配する構造を全体的に変えていく一歩目がDV対策だと思って活動しています。精神的DVをきちんと評価することを、立憲民主党に期待したいです。

 地域間格差について、それより属人的格差だというのはその通りだと思いました。でもDV被害者に対する対応が、地域や担当者によりけりでは不安です。例えばワクチン接種が始まっていますが、DVで避難した人の接種状況はどうなっているのか、情報があまり届いていません。これも自治体によって受けられる人受けられない人が出てこないかと心配です。

 立憲民主党として、DV被害者がどこに逃げても安心な法制度を国で整備してもらいたいです。

 やはり、DVの問題は、当事者は声を出しにくい。ほとんどの被害者は、国会議員に声が届くとは思っていない。誰も声を出さず、ひたすら耐えているという状況があります。DVについての発信は、フェミニズムの問題が注目を浴びているからこそ、それに反対する運動・勢力もあって萎縮している人もいます。立憲民主党には、そうした上がってこない声をすくってもらうことを期待しています。声が届かない人たちもの声を掘り起こして安心安全な国民の暮らしを実現してもらいたいです。

国会質疑がエンパワーメント

山内)当事者の声を国会議員が聞いて、実際に行動に移していくことが、当事者のエンパワーメントにつながっているとおっしゃっていただき嬉しいです。国会議員冥利に尽きます。そういうことを丁寧にやっていくことが私たちの目指す方向だと思っています。

岡村)国会の質疑がエンパワーメントになっています。「困っている」と声に出したことを質疑してもらっただけで、みんな涙を流して喜んでいました。命も救っているし、ママが元気になれば子どものためにもなる。「取り組んでくれる人がいるんだ」と思うことが勇気になります。

打越)すばらしい話で元気になりました。荷が重くもありますが、頑張ります。永田町にいると、どうしても箱もの、看板の話になっていきますが、葛藤のまっただなかにいる、DVなどに怯えている子どもたちの声をどうやって聴くのか。ストレートに子どもや女性をしっかり支えられる制度にしていきたいです。「ジェンダー平等」や「子どもの最善の利益」が抽象的な言葉ではなく、ジェンダー不平等で困っている女性や困難を抱えている問題を具体的に分かっている、受け止められる党でありたいです。

 要望を受け取った総務大臣政務官も、即「はい、やります」とはならない。野党という立場では、改善してもらえるように政府に申し入れをすることしかできませんが、子どもや女性のための政治、声を上げられない人のための政治を実現していくためにはやはり政権交代が必要だとあらためて強く思いました。

山内)政権交代目指してやっていきましょう。今日はどうもありがとうございました。

2021年6月3日 DV等被害者支援措置としての住民基本台帳閲覧制限等の期間制限の削除等を求める申入書.pdf