立憲民主党 外交・安保・主権調査会は「外交・安保政策のアップデートに関する取りまとめ(中間報告)」を公表しました。
〇国家安全保障戦略 WT
【我が国の防衛体制と健全な日米同盟強化】
1. 専守防衛に徹し、我が国を取り巻くきわめて厳しく、急速に変化する安全保障環境の現実を見据えつつ、国民の生命・財産と我が国の領土、領海、領空を守り抜き、地域の平和、安定、繁栄に貢献する現実的な安全保障戦略を進めます。
2. 日米安保条約に基づく日米安保体制は、我が国自身の防衛体制とあいまってわが国の安全保障の基軸であり、強固な日米同盟は日米安保体制の信頼を高め、抑止力を高めることにつながることから、我が国自身の防衛体制を強化するとともに、健全な日米同盟の一層の強化を進めていきます。
3. 日米地位協定の改革に取り組むとともに、我が国の領域内にある「合衆国軍隊の装備における重要な変更」を行う場合は、日米安保条約の付属文書の取り決めに従った日本政府との事前協議の徹底を求めます。
【尖閣諸島防衛と「領域警備・海上保安庁強化法案」】
4. 中国の一方的な主張に基づく、中国公船の尖閣諸島周辺における活動は活発化、常態化しています。平時の領域警備、警戒監視活動の強化及びいわゆるグレーゾーン事態へ万全の態勢を備えるため、「領域警備・海上保安庁体制強化法案」を制定します。
【北朝鮮の弾道ミサイル、新型ミサイル対応】
5. 北朝鮮はかつてない頻度でミサイルを発射し、その技術は急速に進化しています。その脅威に対応するため、宇宙、サイバー、電磁波など新たな先端防衛技術の開発も含め、我が国のミサイル防衛能力、迎撃能力向上をはかり、極超音速兵器をはじめとする新たな脅威への対処能力の研究開発を加速させます。
6. 日米韓の情報共有、連携が北朝鮮のミサイルの脅威に対抗する上で不可欠なため、日韓関係改善に意欲を見せる韓国新政権と積極的に対話を行い、日韓防衛当局間の関係を再構築していきます。関係各国と連携しつつ、北朝鮮との直接対話、拉致・核・ミサイル問題の解決にむけてあらゆる外交的な働きかけを行っていきます。
【台湾海峡問題と在外邦人等保護】
7. 台湾海峡の平和と安定は、我が国の平和と安定に密接に関係しており、緊張が高まると、我が国に対しても大きな影響が及ぶことが想定されることから、両岸関係問題が平和的に解決されることが何よりも重要です。そのための外交努力、平時からの安全保障協力、我が国周辺地域の常時警戒監視、情報収集、台湾海峡情勢に関するハイレベルな情報交換を進めます。
8. 偶発的な衝突など、不測の事態に備えて在留邦人等の域外避難、および国内の国民保護のための計画を適切に策定します。また、他地域の危機的事態に対しても同様の計画策定を行います。
【ウクライナ侵略後の対ロシア警戒】
9. 国際社会の制止を振りきり、ウクライナ侵略を断行したロシアの日本に対する脅威は高まっていると言わざるを得ません。ロシアは、不法占拠している北方領土の実効支配、軍事拠点化を進めており、周辺での軍事活動を活発化させる傾向にあります。北方領土を含む、ロシア軍の動向の監視や対応体制を一層充実させます。
【核抑止・核シェアリングについて】
10. 非核三原則を堅持し、不拡散・軍縮のための取組みに積極的・能動的な役割を果たしていきます。核禁止条約にオブザーバー参加していきます。
11. NATO 型核シェアリングについては、能力的にも NPT 条約に鑑みても現実的ではないだけでなく、日米同盟の抑止力に対する疑念を生みかねません。また、唯一の戦争被爆国として、核廃絶を訴えてきた我が国の信頼を損なうことにもなります。
12. 現在の「日米拡大抑止協議」をハイレベル協議に格上げし、核抑止力やその運用についてアメリカと話し合う仕組みを創設します。
【いわゆる敵基地攻撃について】
13.我が国周辺の弾道ミサイルをはじめとした脅威に対し、抑止力と対処能力を総合的に備えることは、現実的な安全保障戦略における重要な課題です。いわゆる敵基地攻撃については、「法理的には自衛の範囲に含まれ可能である」と認識してきた一方、日米同盟の盾と矛の役割分担の変更につながる重大な政策変更であり、専守防衛を超えるおそれもあり我が国は政策判断として能力を保有してきませんでした。この判断は国防の基本方針に則った基本理念に基づくもので、非常に重いものです。
14.日米の役割分担を変更するのか、周辺国との緊張を高める安全保障のジレンマに陥らないか、報復や飽和攻撃による被害の拡大の可能性とコストをどう考えるか、相手国からの攻撃能力を無力化させる他の手段はないかなども勘案して多角的な観点から、専守防衛を超えることのないよう検討し、国民的理解を得ながら、現実的な防衛力整備を図ります。
15. 相手国の攻撃能力を着手前に麻痺させる宇宙・サイバー領域での対応能力の研究・開発を進め、わが国が他国に優越性を持つ潜水艦能力の向上も推進します。
【ハイブリッド戦・情報戦への対応能力等の獲得について】
16. サイバー、宇宙、電磁波という領域での応酬に加え、SNS などを活用した情報戦が軍事行動と同時展開するハイブリッド戦に対応するため、サイバー、宇宙、電磁波各領域におけるセキュリティ向上や相手の戦力を無力化する能力を、情報戦においてはフェイクニュースへの対応能力等を早急に高めます。民間のサイバーセキュリティ専門家(ホワイトハッカー含む)との協力・連携を構築します。
17. 在外大使館等で活動する防衛駐在官を拡充し、情報収集・分析能力、さらには、体制の抜本的強化を行います。
18. 軍事と非軍事の境界があいまいな各領域の秩序と安定に資する基本方針を策定し、国際的なルールや規範形成の議論に貢献します。
【防衛費のあり方について】
19. 近年急速に進展する軍事技術や我が国周辺の安全保障環境に対応するため、防衛力の強化は必要ですが、どのような能力を備えるかの戦略がなく、積算根拠も曖昧なGDP比2%以上という目標、約11兆円(増加分は消費税2%強に相当)は、総額ありきの目標で合理性が見えず、財源の裏付けもありません。総額よりも質の向上を優先すべきです。
20. 我が国の防衛を一手に担って尽力している自衛隊については、限られた人員、財源的な制約のもと、自衛隊員の施設の改修、十分な備品の支給などの任務環境、処遇の向上等の基礎的部分の改善や無人化・省人化を進めます。なお、自衛隊の体制整備については真に実効性のある防衛力の整備、特に南西諸島防衛の強化を優先します。
21. サイバー、宇宙、電磁波の領域における能力の向上やミサイル防衛網の向上、新型ミサイルへの対処のための研究開発、ゲーム・チェンジャー技術開発の推進などに重点配分するなど、メリハリのある防衛予算を組み、防衛予算の質的充実を図り、最も効果的で効率的な装備計画を進めます。
22. 国内防衛産業基盤の維持・育成は我が国の安全保障に直結するため、デュアルユース技術開発への支援、防衛装備品の国内調達の割合の引き上げ等を行います。
〇 インド太平洋地域積極外交 WT
1. インド太平洋地域において、日米安全保障のみならず、二国間および多国間(QUAD(日米豪印)・ASEAN+3(日中韓)・EU諸国など)による航行の安全確保を含む安全保障協力・交流を促進し、大国間の緊張緩和と信頼醸成のため、国際協調主義に基づく、地域の航行と上空航空の自由と安全のためのルール作りなどを協議する新たな枠組みである会議体(例:自由で開かれたインド太
平洋会議(FOIP会議))の設立を目指します。
2. 日豪 NZ と共に、インド太平洋地域における重要性を踏まえ、地球環境問題、海洋安全保障を含めた太平洋島嶼国との連携協力を深める枠組みを創設します。
3. 韓国に対しては、日韓・日米韓関係にとどまらず、インド太平洋地域における多国間枠組を通じた連携強化を図っていきます。
〇 人権外交・国際貢献力強化 WT
【人権外交】
1. 「人権外交」を主流化するため、人権担当大臣を任命します。人権の保護・促進を外交・開発援助の主要な目的として明確に位置づけます。人権尊重の原則にそった、国際場裡での行動(投票行動、発言)を徹底します。集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約(ジェノサイド条約)を批准します。
2. ロシアの侵略を受けたウクライナ、ミャンマー、ウィグル、香港、北朝鮮(拉致問題を含む)などでの深刻な人権侵害に対して、国際社会とともに人権の蹂躙を即刻停止するよう働きかけていきます。人権侵害国や軍との宥和主義から決別し、人権侵害政府に対する ODA を原則停止(但し、人道援助は継続)します。
3. 国際的な基本的価値である人権規範を強化すべく、日本版マグニツキー法である人権侵害制裁法、およびサプライチェーン全体での人権尊重のため、人権デューデリジェンス法を制定します。国内外の人権保護の活動をする NGO 支援を強化します。日本国内の難民の受け入れ体制を改善していきます。
【国際貢献力強化関係】
1. 国際社会での日本の影響力を更に向上させるために、国内では外交に関わる専門家である外交官を増やし、国外では国際機関の日本人の影響力を強め、母子保健など日本の強みを活かした国際貢献を積極的に行います。
2. 米国等での情報発信を積極的に行うことで、日米同盟を強化し海外での世論づくりに貢献し、わが国のイメージと国際的地位を向上させます。
〇 日米地位協定改革 WT
【地位協定の改定・運用改善の現実的提案】
1. 日米地位協定改定を目指しつつ、現状の基地問題の早期解決にむけて、米側と交渉できる現実的な提案を行っていきます。
また、他国の地位協定を参考に、海外の著名なシンクタンクなども積極的に活用し、グローバルな視点を取り入れていきます。
【健康と安全に直結する重要案件の政治レベル(「2+2」)での交渉】
2. 基地周辺住民の健康と安全に直結する❶新型コロナウイルスのような感染症問題、❷環境汚染問題、❸騒音問題への対処に関する事項については、政治レベル案件に格上げし、「2+2」閣僚会合などの場で審議・決定します。
【日米合同委員会改革】
3. 日米合同委員会を改組し、政治責任をもって交渉にあたることができるよう、外務副大臣を日本側代表とします。
また、30年経過した議事録は、外交記録公開推進委員会にかけ、日米合意の上、両国の公文書開示原則にのっとり原則公開します。今後の日米合同委員会のより詳細な議事要旨について、開催後速やかに公開します。
【刑事裁判手続のさらなる改善等】
4. 現行の刑事裁判手続に係る日米合同委員会合意の「凶悪な犯罪」をすべて列挙し、起訴前拘禁の移転の要請に対して「好意的な考慮を払う」から「原則応じるものとする」に改定するための交渉、日本側による米軍基地の管理権、立入権限、横田空域(RAPCON を含む)の縮小、米軍・自衛隊との共有化の交渉のための検討委員会を設置します。駐留軍等労働者の法的位置づけを明確にする法律を検討します。
【在日米軍と地域住民・自治体の信頼醸成】
5. 英・伊と同様に、日米同盟強化の観点から主要な在日米軍基地に自衛隊幹部または自治体幹部をリエゾンオフィサーとして常駐派遣します。一方、医療・消防協力等を通じて地元自治体と在日米軍基地との協力関係を推進していきます。
【「平時と有事の場合分け」を設定】
6. 日米地位協定の改革にあたっては、独・伊の地位協定を参考にして、平時と有事に分けた協定適用の研究を進めると同時に、有事において日本の安全保障を確保する米軍活動に対して、日本側として可能な限り支援していくものとします。
一方、平時においては、人口密集地や米軍基地周辺住民に対する、深刻な騒音被害や精神的苦痛、さらには物理的危険をもたらすような、深夜・早朝の離発着訓練、低空飛行、パラシュート降下訓練等の「有事を想定した訓練」については、航空法等の基準を踏まえ、日本政府との協議対象とします。