立憲民主党税制調査会 中間取りまとめ

[基本的な考え方]

現在、日本経済は「失われた 30 年」とも言われる長期の低迷の最中にある。「分厚い中間層」は融解し、高所得層と低所得層への二極分化が進むとともに、複数回にわたる消費税増税によりGDPの5割以上を占める消費が冷え込んでいる。一方で企業収益は全体として増加しつつあるものの、賃金の上昇には結びついていない。加えて財政赤字は一層深刻化し、財政の持続可能性が問われている。

現下の状況を打開し、日本経済に活力を取り戻す上で、税制が果たすべき役割は大きい。こうした認識の下、立憲民主党は、所得再分配機能・財源調達機能を強化するとともに、消費の活性化、賃金の上昇を実現するために、「納得と公平の税制改革」「暮らしを支える税制改革」「事業を支える税制改革」の3つの柱を立てて、所得税・法人税・消費税等を一体的に改革する抜本的な税制改革に取り組む。


1.納得と公平の税制改革 ―所得再分配機能・財源調達機能の強化と適正な課税の実現

◎所得税については、勤労意欲の減退や人材の海外流出等の懸念に十分配慮しながら、最高税率の引き上げを行う。

◎金融所得課税については、当面は分離課税のまま累進税率を導入し、中長期的には総合課税化する。同時に資産形成を支援するためNISA(少額投資非課税制度)を拡充する。

◎法人税については、租特透明化法に基づき精査を行い、必要な租税特別措置を残した上で、法人の収益に応じて応分の負担を求める税制に改革する。

◎相続税については、格差是正の観点から税率構造の見直しを行う。

◎給与所得者と比較して個人事業主・フリーランス等の働き手が税制上実質的に不利な取り扱いを受けることが多いことに鑑み、青色申告特別控除の拡充などにより税格差を是正する。

◎退職所得控除については、働き方の多様化、雇用の流動化等が進む現状を踏まえ、「公平」かつ「中立」な税制を目指す観点から改革を行う。

◎巨大IT企業等のいわゆる国際プラットフォーム企業が、ビジネスを展開し利益を上げている国でほとんど納税していない実態に対し、法人税の最低税率に関する合意が実現したことも踏まえ、国際課税の枠組みを更に強化する。

◎納税者の利便性の向上を図る観点等から、複雑な手続きの改善等に資する「納税者権利憲章」の制定を含め、納税環境整備を進める。


2.暮らしを支える税制改革 ―暮らしの不安解消で消費の活性化を促進

◎コロナ禍や物価高騰により、国民生活や国内産業に甚大な痛みが生じていることを踏まえ、税率5%への時限的な消費税減税を実施する。

◎消費税の逆進性対策については、効果的・効率的な低所得者対策となっていない現行の軽減税率制度は廃止し、基礎的な生活費支出に占める消費税相当額を所得税から税額控除し、控除しきれない分を給付する「給付付き税額控除」の導入により行う。

◎原油価格の高騰が家計や事業者の負担を増大させていることに鑑み、揮発油税のトリガー条項の凍結一時停止・発動を行う。

◎自動車関係諸税については、自動車重量税の「当分の間税率」を廃止するとともに、自動車重量税の国分の本則税率を地方税化すること等により、地方財源を確保しつつ、自動車の保有者・利用者の負担を軽減する。

◎いわゆる「賃上げ税制」については、少なくとも、基本給の引き上げを実現するため、適用要件判定などで使用される「給与等支給総額」から、時間外・休日労働による支給額を除外する。

◎奨学金の返還に追われる若年層を支えるため、給付型奨学金の大幅拡充を前提としつつ、貸与型奨学金の返還額について所得控除の対象とする。

◎性暴力や児童虐待などによる被害者を支援するため、公認心理師・臨床心理士等からカウンセリングを受ける場合でも、その費用を所得控除の対象とする。

◎家族構成の多様化を踏まえ、主に女性の働き方の選択肢を狭めている配偶者控除のあり方を見直す。

◎近年、大規模な災害が多発していることを踏まえ、雑損控除から災害による損失控除を独立させ、「災害損失控除」を創設する。


3.事業を支える税制改革 ―事業環境の整備と生産性の向上を促進

◎2023年10月導入予定の適格請求書等保存方式(インボイス制度)については、免税事業者が取引過程から排除されたり、不当な値下げ圧力を受けたり、廃業を迫られたりしかねないといった懸念や、インボイスの発行・保存等にかかるコストが大きな負担になるといった問題があることから、廃止する。

◎総額表示の義務化を見直し、外税表示の選択肢を恒久化する。

◎医療機関の控除対象外消費税問題を解消するため、診療報酬への補填を維持した上で、新たな税制上の措置を早期に講じる。

◎雇用増に応じて中小企業の社会保険料事業主負担を軽減すること等により、企業活動を支援し、従業員の手取り増につなげる。賃金や教育訓練費だけではなく、退職金の増減や余裕資金の多寡に応じたボーナスの増減等について法人税に差をつける「人への投資促進税制」の導入を検討する。

◎雇用を支え地域経済の中核となっている中小企業や、地域の医療を支える医療機関等の事業承継の円滑化を推進するため、10年限定の特別措置となっている事業承継税制の恒久化および免除措置の創設を行う。

◎環境に配慮した農業生産・経営を支える多様な設備・機械装置等の導入及びソーラーシェアリング等を促進するための税制上の措置を創設する。

◎断熱をはじめとする省エネや再エネの普及を進めるとともに、2050年までにカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)を達成できるよう、脱炭素の技術革新・技術開発を税制面からも強力に支援し、税制全体の見直しの中で炭素税のあり方を検討する。

◎我が国の基幹産業である自動車産業の脱炭素化を推進し、国際競争力の維持・強化を図るべく、電動自動車の普及や脱炭素化に資する自動車開発等を支援する税制上の措置を講じる。

◎自動運転や次世代自動車などの最先端技術での競争力を高めていくため、研究開発促進税制を拡充する。

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