参院本会議で4月21日、「新型インフルエンザ等対策特別措置法、および内閣法の一部を改正する法律案」について、立憲民主・社民を代表して杉尾秀哉参院議員が登壇し、反対討論を行いました。

 まず、冒頭に、新型コロナウイルス感染症に対して、国民の命と健康、暮らしを守るために、日夜最前線でご尽力いただいている医療関係者、政府機関、および自治体職員など、全ての皆さんに深甚なる敬意を表します。その上で、私は以下の3つの点に絞って本法案に対する「反対理由」を申し述べます。

1.本法案は「司令塔機能の強化」に役立たない

 新型コロナウイルス感染症などの「パンデミック」が発生するスパンは、年々縮小しており、立憲民主党は、次なる感染症の到来に備えて、危機管理のための「強力な司令塔」が必要であると訴えてきました。
 しかし、本法案で新設される「内閣感染症・危機管理・統括庁」は、司令塔そのものではなく、その人員や体制、組織全体における位置づけや、権限など、どれをとっても「司令塔機能の強化」に資するものではないことが、衆参の審議の過程で明らかになりました。
 むしろ、今回の新型コロナのように、政府対策本部が置かれた場合は、政府としての意思決定は政府対策本部が行い、統括庁はその下で「総合調整事務」を担う、いわゆる「事務局的な」役割に留まる可能性大です。
 また、平時においても、統括庁の役割は、計画策定や訓練、各省庁や自治体の総合調整など限定的で、当初の触れ込みとはあまりに違い過ぎます。そもそも法令上は内閣官房長官の所管なのに、現在のコロナ禍での後藤大臣のような「担当大臣」が置かれた場合は、事実上の担務は担当大臣が担うと言う、複雑怪奇な組織になっています。
 つまり、誰が担当大臣になるかもわからないような組織では、かえって指揮命令系統が複雑化し、有事に混乱をきたすこと間違いありません。
 こうした実態を隠すように、政府は統括庁について、「強力な統括」とか、「政府全体を俯瞰する立場」と言った曖昧な説明を、参議院での審議で繰り返しました。これは、統括庁の司令塔機能としての「実態のなさ」の裏返しでしょう。
 統括庁の体制は平時で38人。有事でも101人。さらに、各省幹部職員の併任を入れても300人。これに対して、アメリカの感染症対策の司令塔であるCDCが、常勤職員だけで1万2千人もいるのですから話になりません。まさに「看板に偽りあり」です。
 結局、本法案が成立しても、将来の感染症危機に備える日本の法システムは脆弱さを抱えたままで、危機管理の観点からも大きな問題を抱えています。こんな欠陥だらけの統括庁を「感染症対策の司令塔」とは呼ばないで下さい。
 実はこれは、いわゆる日本版CDCにも言えることで、現在ある二つの組織、「国立感染研」と「国立国際医療研究センター」を統合したものに過ぎません。そう言えば、近年、日本版NIHや、日本版NSCなど、アメリカの真似をした政府組織のネーミングが増えていますが、こうした名前はともかく、中身は「二の次」になっていないでしょうか。

20230421_120615.JPG

2.本法案によっても非科学的な政策決定が是正されない

 未知のウイルスによる危機に対処するためには、専門家の意見を適切に反映し、科学的な政策決定を行うことが必須です。
 ところが、これまでのわが国のコロナ対策では、専門家の組織として「政府分科会」や「厚労省アドバイザリーボード」などがあるものの、こうした所で出された専門家の意見や議論が、都合よく「つまみ食い」されたり、あるいは「全く無視される」か、「蔑ろにされる」ことは日常茶飯事でした。
 例えば、2020年の「全国一斉・臨時休校」は、政府の専門家会議で議論されることなく決定されました。オリパラ東京大会の開催を優先した判断だという指摘もあります。
 これに始まり、膨大な予算と行政コストをかけた、あの「アベノマスク」。そして、専門家から感染拡大を招くと懸念が示されたにもかかわらず強行的に実施され、その後、感染が拡大してから、あわてて停止された「GoToキャンペーン」。さらには、2021年の緊急事態宣言でも、同じようなケースが繰り返されました。
 今後、こうした失敗を繰り返さないためには、これまでの政策決定プロセスについて徹底的な検証を行うと共に、専門家の意見が適切に反映される仕組みを構築する必要があります。
 にもかかわらず、今回の法案にはそうした点が全く考慮されていません。その象徴は、いまだに効果があったと政府が公言して憚らない「アベノマスク」です。誰も使用していなかったのに、です。これでは、また同じ過ちを繰り返すのは必定と言えます。

20230421_121158.JPG

3.内閣官房の業務が肥大化することへの懸念

 本法案には、統括庁の設置に伴い、内閣官房に事務が追加されることを定める規定がおかれています。しかし、追加される事務は具体的に定められておらず、包括的な文言となっています。
 これでは、内閣官房の業務が更に肥大化しても、チェックが働きにくくなる恐れが大きいです。2015年の「内閣官房・内閣府スリム化」の理念は一体どこに行ってしまったんでしょうか。

 ここまで私は、本法案に反対する、主に三つの理由を述べてきました。

 しかし、問題はこれだけに留まりません。
 新型コロナ感染症が下火になっているこの時期に、今回の法改正を契機に、徹底的に問題の所在をあぶり出し、「感染症に強い国造り」を目指すべきであるのに、政府にその姿勢が全く見られません。
 むしろ、新型コロナを「2類相当」から、「5類」に移行する、「前のめり」の姿勢だけが目に付きます。 

 振り返れば、わが国での新型コロナ感染・初確認から3年3カ月。最初の緊急事態宣言を経て、現在に至るまで
●コロナ感染者の累計 3300万人
●国内死者数 7万4200人余(この中には我々の同志だった羽田雄一郎元議員も含まれます)
●2019年度~21年度に計上したコロナ対策予算は、会計検査院の調べで総額94兆4920億円に上りました。
 これだけ膨大な犠牲を払い、年間予算に匹敵する財政措置を講じたにもかかわらず、パンデミックが収まりつつある中でも日本経済の戻りは鈍く、いまだにマイナス圏に沈んだままです。
 アメリカやユーロ圏が急回復しつつあるのと比較しても、なぜ日本だけがこんなことになっているのか、政府からは何も説明が行われていません。
 こうした由々しき状況にあるのに、本法案作成の基礎になった去年6月の有識者会議による検証は、期間わずか1か月、5回の会議開催で取りまとめられました。
 その中に書かれた言葉「今後とも社会経済財政への影響、財源の在り方、施策の効果などについて多面的に検証が行われ、的確に政策が進められることを求めたい」という指摘が象徴的です。
 そもそも、「内閣感染症危機管理統括庁」が、一省庁の「課」や「室」となんら変わらない規模なのに、なぜ「庁」と名付けられたのか、委員会での質疑でも納得行く説明は全くありませんでした。
 その理由を調べたところ、一昨年秋の自民党総裁選で、岸田総理が「健康危機管理庁を作る」とブチ上げてはみたものの、政府内で「平時に仕事がない」「非現実的だ」など言う声が上がり、結局、今回の法改正のような内容に落ち着いたという経緯があるようです。
 つまり、今回の法案は、岸田総理の総裁選での公約やメンツと、現実の折り合いをつけた「ごまかし」や「妥協の産物」に過ぎず、これでは来るべき未知の感染症の克服と、真に国民の命と健康を守れるとは到底思えません。また、熟慮の末の法改正とはとても言えません。
 こうして考えれば、なぜ熟議に基づかない拙速な政策決定が行われ、この法案が成立させられようとしているのか幾つかの疑問が氷解すると同時に、優秀な官僚機構に支えられているはずの日本の行政組織の劣化を感じざるをえません。
 これは、岸田総理がコロナ対策を「徹底的に検証する」と約束しながら、中途半端に終わってしまった去年6月の有識者会議の報告についても同様に言えることで、参院選前の政治的アピールの材料にされた感は否めないままです。
 事ほど左様に、今回の法案は、病院など医療関係者や、保健所など、コロナ禍の克服に身を賭した皆さんの思いとは遠い所にある、「政治的パフォーマンス」の域を出ない本法案には明確に「反対」します。
 それと共に、このままでは、「いつか来た道」にならないとも限らない、強い危惧の念を表明して、私の討論を締めくくります。ご清聴ありがとうございました。

20230421新型インフル特措法・本会議反対討論 杉尾秀哉参議院議員.pdf