参院憲法審査会で5月10日、緊急事態における議員の任期延長、参院の緊急集会に関して議論が行なわれ、立憲民主党から杉尾秀哉、打越さく良、古賀千景、辻元清美、熊谷裕人の5議員が発言しました。

■杉尾秀哉議員

 杉尾議員は、国会議員の任期延長を目的とした憲法改正について「不要であり、むしろ危険ですらある」と疑問を呈しました。近年のロシアや中国における憲法改正で最高権力者の任期が延長された事例を引き合いに出し、日本における衆院の任期延長は、「内閣総理大臣の任期延長、つまり延命を意味する」と指摘し、このような「権力持続化の危険性を十分に認識する必要がある」と警鐘を鳴らしました。

 また、「在外邦人選挙権制限違憲訴訟」で最高裁が「国が国民の選挙権の行使を可能にするための所要の措置を執らないという不作為によって、国民が選挙権を行使することができない場合」も憲法違反と断じた事例を示し、議員の任期延長の改憲議論ばかりを進めることは、選挙権の制約の議論を先行させるものであり、「国民主権」の観点からも重大な問題をはらんでいると指摘しました。

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■打越さく良議員

 打越議員は、日本で一度だけ行われた1941年の衆院の任期延長の背景について、『第76帝国議会・新法律の解説』から引用しました。「今日のような緊迫した内外情勢下に、短期間でも国民に選挙に没頭させることは、国政について不必要にとかく議論を誘発し、不必要な摩擦競争を生じせしめて、内治外交上はなはだ面白くない結果を招くおそれがあるのみならず、挙国一致防衛国家体制の整備をまい進しようとする決意について、疑いを起こさしめぬとも限らぬので、議会の議員の任期を延長して、今後ほぼ一年間は選挙を行わぬこととした」と説明しました。

 この任期延長に関して憲法学者の高見勝利氏が「戦争遂行の国内体制を整備するためのものであったというのが、少なくともわが国における衆院議員の任期延長の実例が示すもの」との発言を紹介しました。打越議員は、国会議員の任期延長が「『政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないようにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言』した日本国憲法前文からは最も遠いものに感じる」と訴えました。

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■古賀千景議員

 古賀議員は、打越議員が示した1941年の議員任期の延長をはじめとする戦前の権力濫用が「戦争の惨禍をもたらした一因と考えることもできる」と分析しました。憲法制定議会の金森担当大臣が、その権力濫用を防ぐため、導入したのが参院の緊急集会であると指摘し、同大臣が唱えた「民主政治を徹底させて国民の権利を十分擁護するため」「どんなに精緻なる憲法を定めましても口実をそこに入れてまた破壊せられるおそれ絶無とは断言しがたい」との緊急集会の根本趣旨に触れ、そこに立ち返って議論する必要性を訴えました。

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■辻元清美議員

 辻元議員は、2011年の東日本大震災から3カ月も経っていない緊急事態の真っ最中に自民党などが内閣不信任案を提出したことに触れ、「緊急時には選挙ができないので、衆院の任期を延長し、その場合の内閣不信任案の議決や解散の禁止という改憲を主張しながら、危機の真っ最中に内閣不信任案を提出したのは自民党だ。言っていることとやってることが全く矛盾してるのではないか。これでは衆院議員の任期延長も改憲の単なる口実に過ぎないのではないか」と自民党などが任期延長を主張する本旨に疑問を投げかけました。

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■熊谷裕人議員

 立憲民主党から最後に発言した熊谷議員は、「緊急事態を口実に選挙もせずに議員任期を延長し 長期政権を可能にすることの方が過去の歴史を踏まえると、比較にならないほど危険である」と懸念を示しました。「国民の代表者である議員を選挙によって選定する国民の権利は、国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利として議会制民主主義の根幹をなすもの」と説き、「緊急の事態の下であっても選挙を実施するための所要の措置を取ることが必要であり、措置を取らないことは国会の不作為となりかねず、まずは選挙実施を可能とする郵便投票の拡充やオンライン投票の法整備などの所要の措置を考えなければいけない」と提案しました。