2024(令和6)年度税制改正についての提言

― 物価高を克服し、活力ある経済・社会を実現する ―

立憲民主党 税制調査会

 現在、日本の経済・社会は、新型コロナウイルス感染症の影響から立ち直りつつあるものの、急速に進む円安と物価高騰の影響を受け、家計・事業者は依然として厳しい状況に置かれている。また、高所得者と低所得者の経済格差、将来不安の増大、働き方やライフスタイルの多様化への対応、エネルギー自給率の低さがもたらす脆弱性、気候危機の進行など、積年の課題が山積している。税制においても、これらの課題への対応が強く求められている。

 2024(令和6)年度の税制改正にあたっては、こうした現下の経済・社会情勢と積年の課題に向き合い、活力ある経済・社会を実現するため、個人・企業・団体等に対して、適時適切な税制上の措置を講じる必要がある。こうした基本認識の下、立憲民主党は、関係団体等から要望聴取を行った上で、2024(令和6)年度の税制改正に関する提言を取りまとめた。

1. 物価高騰で厳しい状況にある家計・事業者等への支援

 日本の経済・社会が新型コロナウイルス感染症の打撃から回復に向かいつつある中で、現下の物価高騰がその動きを阻害することのないように、厳しい状況にある個人・事業者等を税制面から支援する。

◎ 政府・与党が実施に向けて検討を進めている所得税・住民税の定額減税については、経済対策としての即効性を欠く上に、制度が煩雑となり、現場に多大な負担を強いることになるため、必要な支援は「給付」で迅速に実施すること。

◎ 原油価格の高騰が家計や事業者の負担を増大させていることに鑑み、復興財源に配慮しつつ、「トリガー条項」の凍結一時停止・発動(ガソリン1ℓあたり約25円の減税)を実施すること。

◎ インボイス制度(適格請求書等保存方式)については、免税事業者が取引過程から排除されたり、廃業を迫られたりする等の問題がある上に、従前の「区分記載請求書等保存方式」でも適正課税は可能であることから、速やかに廃止すること。また、10月からの制度開始に伴い、既に課税事業者(インボイス発行事業者)に転換した免税事業者等に対しては、必要な支援措置を実施すること。

◎ この間の新型コロナウイルス感染症の影響や物価高騰によるコスト高が事業を直撃している現状を踏まえ、欠損金の繰戻還付制度の期間(現行1年)を延長すること。

◎ コロナ禍や物価高騰等の急激な経営環境の変化により事業承継の具体的な検討が遅れていることに鑑み、法人版事業承継税制における特例措置の対応期限を延長するとともに、各種届出や申告手続きを簡素化すること。その際、個人版事業承継税制についても同様の対応を実施すること。

◎ 中小企業者等の法人税率の軽減措置(15%)を本則化すること。

◎ コロナ禍で医療を支えた医療機関を支援するため、控除対象外消費税問題の抜本的解決のために必要な措置を講じること。

◎ コロナ禍や原油高騰により多大な影響を被った航空事業者の負担軽減を図るため、航空機燃料税の軽減措置を継続すること。

◎ 消費税を含め、所得税、法人税等について、税負担の公平性の確保、経済的格差の是正、経済の活性化等を図る観点から、税制全体の見直しを行うこと。


2. 物価を上回る賃金上昇の実現に向けた支援

 現下喫緊の課題は、物価の高騰に賃金の上昇が追い付かないために、国民の暮らし向きが一向に改善しないことである。賃上げ促進、「人への投資」等による労働生産性の向上など、必要な取り組みを税制面からも支援する。

◎ 一部企業の過大な内部留保が賃上げに回るように、税制等による措置を強化すること。

◎ 「賃上げ促進税制」については、雇用者の約7割を抱える中小企業の多くが赤字法人であることから、賃上げに有効な手段とは言えず、この間、実際に十分な効果も見られないことから、より効果的な手段に改めること。

◎ 仕事を退職して大学等で学び直しをする場合に、その際に要した資格取得費等を再就職後の給与所得から控除したり、社員が大学院等で学び直しをする際の費用等を企業が負担した場合に、その金額を法人税額から控除できるようにしたりするなど、リカレント教育を推進する個人・企業に対して税制上の優遇措置を講じること。

◎ 少額減価償却資産特例について、中小企業の事務負担の軽減を通じた業務効率化、生産性向上の観点から、期限を延長するとともに、現下の物価上昇を踏まえ、現行の対象資産の取得価額(30万円未満)の引上げ、および取得合計額の上限(300万円以下)の引上げを実施すること。

◎ DX投資促進税制については、「人への投資」の観点から、DX人材育成への投資を対象に含めること。また、令和5年度税制改正で盛り込まれた「対象事業の海外売上高比率が一定割合以上となることが見込まれること」との要件は、国内で活動する企業が本税制措置を受けられなくなるため、当該要件の廃止を含め、利便性向上に向け、所要の措置を講じること。

◎ 同様の内容でも電子文書の場合は課税されない、金額が同じであっても契約の種類により税額が異なり、契約書作成時に大きな負担となるなど、印紙税には様々な不合理、不公平な現象が生じており、生産性の向上を阻害していると考えられることから、印紙税制度は廃止すること。


3. 税制の所得再分配機能・財源調達機能の強化

 「失われた30年」とも言われる長期の経済低迷のなかで、高所得者と低所得者の経済格差は拡大し、日本社会の特徴とされてきた「分厚い中間層」は消滅した。こうした状況を打開するため、税制の所得再分配機能・財源調達機能の回復・強化を図り、成長の基盤を確保する。

◎ 所得税については、勤労意欲の減退等の懸念に十分配慮しながら、累進性の強化を図ること。併せて、名目賃金の上昇を踏まえ、課税最低限の引き上げなど、必要な措置を講じること。

◎ NISA(少額投資非課税制度)の拡充が実現した一方で、貯蓄ゼロ世帯の増加などを踏まえると、所得格差の拡大・固定化を是正する取り組みは依然として不十分であることから、所得再分配機能を強化する観点から、金融所得課税について、当面は分離課税のまま累進税率を導入し、中長期的には総合課税化すること。

◎ 法人税については、租特透明化法に基づき精査を行い、抜本的な見直しを実行した上で、法人の収益に応じて応分の負担を求める税制に改革すること。

◎ 消費税の逆進性対策については、中低所得者が負担する消費税の半額相当分を所得税から税額控除し、控除しきれない分を給付する「給付付き税額控除」(消費税還付制度)の導入により行うこと。併せて、迅速・簡素な給付の方法を検討すること。

◎ 資産格差が拡大・固定化している現状に鑑み、税率構造や非課税措置の見直しなどにより、相続税・贈与税の累進性を高めること。


4. 暮らしの安心を支え、幅広い消費を喚起するための税制 

 日本経済の長期低迷の一因は、GDPの半分以上を占める個人消費の減退にあり、足元でも円安・物価高騰による個人消費の低迷が経済回復の足枷となっている。暮らしの安心を支え、将来不安の解消に資する税制上の措置を講じることで、幅広く消費を喚起し、日本経済の再生を図る。

◎ 現役世代の社会保障への不安解消、高齢者の生活の安定に寄与するため、生命保険・介護保険・個人年金の各保険料控除の最高限度額を引き上げるとともに、保険料控除の合計適用限度額を引き上げること。また、遺族の生活困窮の防止や子どもの教育機会の確保に向けた保障額の充実のため、扶養している子どもがいる場合は、生命保険料控除の最高限度額並びに合計適用限度額を更に引き上げること。

◎ 確定給付企業年金、確定拠出年金をはじめとする企業年金等の積立金に係る特別法人税については、公的年金制度を補完する企業年金制度の健全な維持・発展や、労働者の権利である受給権の保全に支障をきたす恐れがあることから、廃止すること。

◎ 奨学金の返還に追われる若年層を支えるため、奨学金制度の拡充を前提としつつ、貸与型奨学金の返還額について所得控除の対象とすること。

◎ 自動車関係諸税については、走行距離課税など新たな負担増の議論を行うのではなく、現行の複雑・過重な税制の見直しを図ること。具体的には、自動車重量税の「当分の間税率」を廃止するとともに、自動車重量税の国分の本則税率を地方税化すること等により、地方財源を確保しつつ、自動車の保有者・利用者の負担を軽減すること。

◎ 性暴力や児童虐待などによる被害者を支援するため、公認心理師・臨床心理士のカウンセリングを受ける場合、その費用を所得控除の対象とすること。

◎ 失職者等に対して、税の減免措置を広く適用するため、所得基準の弾力的運用や特例措置を講ずること。

◎ 政府・与党では、児童手当の支給対象を高校生まで拡大するにあたり、16歳~18歳までの扶養控除の縮小が検討されているが、子育て・教育にかかる費用負担が少子化の大きな原因とされていることなどに鑑み、手当が十分な額とならない限り、控除は存続させること。

◎ 扶養控除・特定扶養控除は、12月31日時点の年齢に基づき適用されるため、いわゆる「早生まれ」の者は適用が遅れ、その分税務上不利益を被ることから、就学年での適用を認めるなど、必要な改正を講ずること。

◎ 働く人の安心を支えるため、食事手当の非課税限度額を引き上げること。


5. 働き方やライフスタイルに中立な税制

 共働き世帯やフリーランスの増加、パートナーシップ制度の広がりなど、働き方やライフスタイルが多様化するなかで、税制がその選択を歪めることがないように、中立な税制を確立する。

◎ 配偶者控除などにより就労調整が起こることのないように、関連する制度全体での整合性を確保しつつ、当面は最低賃金の上昇等に対応した控除額の引き上げ、中長期的には所得税の人的控除等の抜本的な見直しを図ること。

◎ 法人の欠損金の繰越控除期間が10年間とされていることに鑑み、法人・個人間の制度格差・不公正を是正する観点から、青色申告を行うフリーランスや個人事業主については、純損失の繰越控除期間(現行3年間)を10年間に延長すること。

◎ 所得税法第56条については、恣意的な所得分散を防止するため、対価の授受を行う親族の双方が正規の簿記の原則に従った帳簿を備え付け、契約によって支払いの事実や適正な対価であることを明確にすること等の要件を付した上で、廃止を含め、見直しをすること。

◎ 異性間の法律婚に限定して配偶者控除を適用する現行税制を見直すこと。


6. カーボンニュートラルの実現に向けた税制 

 気候危機の深刻化や、この間、輸入依存度の高い原油の価格高騰が国民の暮らしを圧迫してきたこと等を踏まえ、原子力エネルギーに依存しないカーボンニュートラル社会の早期実現に向けて、必要な税制上の措置を講じる。

◎ 2050年までにカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)を達成できるよう、脱炭素の技術革新・技術開発を税制面からも強力に支援し、税制全体の見直しの中で炭素税のあり方を検討すること。

◎ 我が国の基幹産業である自動車産業の脱炭素化を推進し、国際競争力の維持・強化を図るべく、電動自動車の普及や脱炭素化に資する自動車開発等を支援する税制上の措置を講じること。

◎ カーボンニュートラルに向けた投資促進税制について、期限を延長するとともに、電気自動車に係る充電設備や蓄電池など、カーボンニュートラルへの貢献度の高い取得資産を対象に加えるなど、拡充を図ること。

◎ 森林環境譲与税については、温室効果ガスの排出削減を図るための森林整備等に必要な地方財源を安定的に確保するという本来の趣旨を踏まえ、人口が多く、森林が少ない自治体に厚く配分される現行の譲与基準を見直し、山間地など行政ニーズの高い自治体に多く配分されるようにすること。


7. 多発化・深刻化する災害等に対応する税制 

 近年、気候危機の影響を受け、災害は多発化・深刻化を極めており、国民生活に重大な影響を及ぼしている。また、特に本年はクマの出没による人的被害が拡大している。これらの事態に対応するために必要な税制上の措置を講じる。

◎ 低所得者世帯の多くが地震保険に加入できていない実態等を踏まえ、地震保険料控除制度について、所得控除方式と税額控除方式の選択制の導入、保険料の改定に合わせた控除額の拡充など、地震保険の更なる普及を図るために必要な措置を講じること。

◎ 遺族の生活資金を確保するため、災害時の死亡保険金の非課税枠を拡充すること。

◎ クマをはじめとする鳥獣被害を減少させるためには、鳥獣の捕獲を行う狩猟者の確保が必要不可欠であることから、令和5年度末に期限が到来する狩猟者登録に係る狩猟税の特例措置を延長すること。


8. 真の地方分権改革実現に向けた地方税財源の安定的な確保等 

 真の地方分権改革実現に向けては、地方税財政の安定が欠かせない。地方が地域の実情に沿ったきめ細かな行政サービスを担えるよう、必要な措置を不足なく講じる。

◎ 一般財源総額及び地方交付税総額を確保・充実すること。特に、会計年度任用職員への勤勉手当の支給などの人件費を含む財政需要の増加に的確に対応すること。財源不足分は臨時財政対策債に依存することなく、交付税率の引き上げなどで対応すること。

◎ 国・地方の税源配分を地方の担う事務と責任に見合ったものに見直すとともに、偏在性が小さく安定的な税収を確保できる地方税体系を構築すること。

◎ 地方に影響を及ぼす税制改正の検討に当たっては、「国と地方の協議の場」等を通じ、地方の意見を十分反映すること。

◎ 政府・与党が実施に向けて検討を進めている所得税・住民税の定額減税については、本来的には「給付」に改めるべきだが、仮に実施された場合は、地方の財政運営に支障が生じないように、住民税の減収額は確実に全額国費で補填するとともに、所得税の減税に伴う地方交付税の減額についても、国の責任において確実に補填すること。加えて、システム改修費や人件費など、自治体に新たな経費が発生する場合は、全額国の負担とすること。

◎ 「トリガー条項」の発動、航空機燃料税の軽減による地方税の減収については、国による補填あるいは譲与割合の引き上げなどで確実に対応すること。

◎ 「ふるさと納税」制度については、様々な問題が指摘されていることから、抜本的な見直しを行うこと。

◎ 実質的には大企業である法人が減資により外形標準課税を回避する「課税逃れ」に対して、中小企業への影響に最大限配慮しつつ、適切な対策を講じること。


9. 多国籍企業による租税回避の防止 

 巨大IT企業などの多国籍企業による租税回避行為が横行していることに鑑み、「経済のデジタル化に伴う課税上の課題に対する国際合意」(2021年10月)が実現したことを踏まえ、必要な対応を講じるべきである。

◎ 合意における「第1の柱」(市場国への新たな課税権の配分)について、多数国間条約の策定に向けた議論を加速するとともに、条約締結後の速やかな批准と国内法の改正など、必要な対応を確実に実施すること。


10. 納税環境の整備 

 税務手続きの煩雑化に鑑み、デジタル化・簡素化を促進するとともに、実態に即した納税環境を整備することで、納税コストの低減を図る。

◎ 税務行政において納税者の権利利益の保護を図るため、「納税者権利憲章」を制定すること。

◎ e-Tax及びeLTAXの使用性を高めるとともに、その活用等を通じ、電子化対象手続きを拡充するなどして、税務手続きのデジタル化・簡素化を進めること。

◎ 扶養親族の変更、保険料控除証明書の到達遅延などにより、翌年に年末調整のやり直しが必要になる場合があることに鑑み、年末調整の実施時期を1カ月後ろ倒しすること。同時に、その影響が及ぶ所得税の確定申告についても、申告期間を1カ月後ろ倒しすること。また、インボイス制度の開始による混乱等を踏まえ、消費税の確定申告期限についても同様に延長すること。  

以 上

立憲民主党「2024(令和6)年度税制改正についての提言」.pdf