災害は突然起きる。誰もが災害弱者になり得る社会にあって、防災、減災を進めることで「災害の死」を少なくすることはできます。今後も起きる災害に私たちはどう対応すれば良いのか。岩手大学の麦倉哲教授に横沢高徳参院議員が話を聞きました。(取材日:2024年1月25日)

■社会のつなぎ役となる中間層が枯渇

横沢 今回の能登半島地震について、麦倉先生の受け止めをお聞かせください。

麦倉 「災害の死」というのは社会の脆弱(ぜいじゃく)性と関係しています。社会的に弱い立場の人たちが犠牲になる傾向があります。災害による犠牲者をいかに防ぐか、今回起きてしまったことを検証しなければいけません。今回の地震での政府の対応は遅いと感じました。

横沢 東日本大震災では翌日から、空振りでもいいから最初に自衛隊を大規模投入しました。要らなければ減らしていくということで。

麦倉 東日本大震災では、高齢者、障がいを持つ方の犠牲者が多かった。だから平素から災害が起きた時にどうするかを自治体が把握し、それを政府が強力にバックアップしなければいけない。それが今回は後退した感じがします。

横沢 加えて、避難の時に必要な支援等について、社会の取り組みがまだまだ進んでいないように感じます。

麦倉 一見すると災害と関係ないように見えますが、日本の階層構造、貧富の格差が進んでいることと大いに関係しています。自分は貧しい、生活が苦しいと思っている人たちは、人を助ける余裕がなくなってきています。中間層、いわゆる社会のつなぎ役となる層が枯渇し、高齢化と相まって地域の担い手が乏しくなっています。

横沢 今回、能登地方はかなり高齢世帯が多いところでの災害だったので、今お話しのあった構造が顕著に出た災害でした。

写真1 20240125_141959 001.jpg麦倉哲(むぎくら・てつ) 岩手大学地域防災研究センター 客員教授

■地域の人材を有効活用する仕組みを

横沢 被災された方たちの避難生活が長期化することを心配しています。また、避難所には支援は届きますが、個別に避難せざるを得ない障がいを持つ方、小さい子どもを持つ方、引きこもりの方などに、どう支援していくかが非常に重要だと思います。

麦倉 地域の人的資源、保健師さんや看護師さん、大工さん、電気工事や水道業者さんなどが、地域の中にはいます。専門的な技術を持っている人たちが、自分たちが立ち上げた避難所で活躍するという例もあります。そのような地域の人材を有効に活用できる仕組みを、事前に用意しておくことはとても有効です。

 石川県でもこの十数年間で小学校が2割近く減少しています。小学校があるということは、子どもが通える範囲に避難場所があるということです。

横沢 地方を回ると、今どんどん小学校が閉校しています。でも実際にここで災害があったら、皆さんどこに避難するのか。これは国全体の問題として、大きな枠で考えることが必要だと思います。

麦倉 国が統廃合を促進するようなやり方では地域の脆弱性が増していきます。

横沢 今回の能登半島地震も踏まえて、避難所の在り方などに多様性という考え方を取り入れていくにはどうするべきですか。

麦倉 内閣府で避難所運営のガイドラインを作っていますが、そのとおりにできているか。本当に男女共同になっているのかもそうですし、さまざまな障がいを持っている人、それから外国人たち、そういった人たちが協力するにはどうしたらいいのか。それからLGBTQの人たちもいます。

 トイレ、個室、プライバシー空間。洗濯の物干しなど、そのようなものを点検し、気づいている人たちが意見を言いやすいような場にしていくことが大事だと思います。

横沢 特に女性の視点であったり、子育て世代の視点であったり、あとは知的障がいがあったり、じっとしていられない子どもたち、周りの避難者にも迷惑をかけるからといって避難所に行けない人たちの居場所づくりも非常に重要です。

写真3 20240125_140036 001.jpg横沢高徳(よこさわ・たかのり) 参院議員/岩手県/1期

■災害対応に必要な3つの力

横沢 今後の災害対応で必要だと考えられていることは?

麦倉 私は「地域の力」「学校の力」「科学の力」。この3つの力が非常に大事だと思っています。

 まず「地域の力」は、「防災計画」を自治体と地域の人たちが連携して運用できるようにし、政府はそれをバックアップすることが非常に重要だと思います。

 「学校の力」は、小学校が災害に遭わないように安全なところに立地するなどしたうえで、防災拠点として整備することです。

 そして「科学の力」は、能登半島周辺は地震が多い。どのような断層があるのかなど、しっかりと研究し、研究結果を政策提言や科学的知見として国民の皆さんに提供することです。

横沢 災害に対しての政治のあるべき姿について、お考えを聞かせてください。

麦倉 一番言いたいことは、「災害の死は公共の死」ということです。大規模災害、戦争や大事故もそうですが、そこでの死は国家や社会の対策が不十分であったがゆえに犠牲になった死です。その人の犠牲はどうすれば犠牲とならずに済んだのかを検証しなければ対策も打てません。

 困っている人がいる。この人たちのために何ができるかと、想像できる人が国会議員になってほしいです。

横沢 「災害の死は公共の死」。すごく心に響きました。国会で仕事をしている中で政府が動かないことに歯がゆい思いをしていますが、諦めず粘り強く、必ず政権を奪取してこの日本を立て直し、国民の命を守る国を作っていきます。