衆院本会議で4月4日、(1)自衛隊の人的基盤の抜本的強化策(2)自衛隊の組織改編(3)同志国等との関係強化──などを柱とする「防衛省設置法等の一部を改正する法律案」が審議入りし、篠原豪議員が会派を代表して質問に立ちました。予定原稿は以下のとおりです。
「防衛省設置法等の一部を改正する法律案」に対する趣旨説明質疑
令和7年4月4日
立憲民主党 篠原豪
立憲民主党の篠原豪です。会派を代表し防衛省設置法等の一部を改正する法律案について質問します。
【束ね法案と国会軽視】
まず、本法案を束ね法案として審議することに、国会軽視であると抗議いたします。
本法案の内容は、「人的基盤の抜本的強化策」、「自衛隊の組織改編」、「同志国等との関係強化」の3分野に渡り、それぞれ8項目、4項目、2項目と多数の内容が盛り込まれています。
防衛省や自衛隊の活動は重要であり、それを国会が慎重に審議するためにも、束ねは出来る限り回避すべきであって、特に、物品役務相互提供協定(ACSA)は、別の法案で出すべきだったのではないでしょうか。
このように「束ね法」は国会軽視と批判されている上に、内閣法制局の審査基準では、「政策の統一性」、「条項の関連性」等が求められています。本法案も含めて、なぜ束ね法案として国会に提出できるのか、その理由及び国会軽視との批判に対する政府の見解をお答えください。
加えて、法案を束ねて、国会の審議を形骸化するようなことを避けるよう主張しているにも関わらず、政府は今後も束ね法案の問題を解決する努力を行わないまま、国会に提出するつもりでしょうか。それともこの矛盾を解消するように各省庁に働きかけるつもりがあるのかどうか、官房長官に答弁を求めます。
1 自衛隊の人的基盤の強化
【自衛官の処遇改善】
自衛隊の人的基盤の抜本的強化について伺います。
自衛隊の役割は、国の防衛や災害派遣に加え、諸外国との共同訓練や国際支援活動など多岐にわたり、求められる任務も増える現状です。一方で、自衛官は慢性的な人員不足に陥っています。
こうした状況を踏まえ、石破総理は自らが議長となり自衛官の処遇・勤務環境の改善等に関する関係閣僚会議を設置し、12月に基本方針が策定されました。本法案で改正される手当の新設・拡充などの処遇改善や、隊舎の個室化等の勤務環境の改善などは、この基本方針に盛り込まれた施策です。
そこで、この基本方針で示された施策が自衛官の採用増や中途退職の抑制に、どの程度の期間で、どの程度の効果が見込めると考えているのかを伺います。
また、政府は、当面、この処遇改善策を、防衛力整備計画に基づく5年間の総額43兆円の中で工面する方針とのことです。しかし、昨今の円安や、原材料価格が高騰する中で、果たして支障なく達成できるのか甚だ疑問です。自衛官採用率や充足率などの改善が見込まれなくなった場合には、どのように対処するのか、また追加の費用はどのように捻出するお考えなのかについても、お聞かせください。
【予備自衛官等】
予備自衛官制度は有事の際に迅速に防衛力を増強するという、国家の防衛力を支える重要な制度です。しかし、予備自衛官等の現在の充足率は、予備自衛官が約70%、即応予備自衛官が約50%と低迷しています。
この状況に対応すべく、本法案には予備自衛官及び即応予備自衛官に対する手当の額の引上げが盛り込まれています。予備自衛官手当の引上げは38年ぶり、即応予備自衛官手当の引上げは平成9年の制度開始後初とのことですが、こんなにも長い期間、手当の額を引き上げなかったのはなぜでしょうか。理由をお尋ねいたします。
また、これまでに充足率向上のためにどのような施策を行ってきて今の実態に繋がってしまったのかその評価と、それを踏まえた上での今後の改善の見込みもお聞かせください。
2 自衛隊の組織改編
【自衛官定数の変更】
自衛官の定数の変更についてお伺いいたします。
自衛官の定数の総計については、直近10年以上にわたり24万7千人強の水準で横ばい状態であることに加え、防衛力整備計画において2027(令和9)年度末までは現行水準を維持することが定められています。
その中で、いわゆる「基盤的防衛力構想」が長らく自民党政権のもとで続いてきましたが、民主党政権時の2010年に、冷戦時代のソ連による北海道侵攻を陸上で食い止めるための体制を、南西諸島の防衛強化が重要という観点から「動的防衛力」に変え、その後名称は「統合機動防衛力」に変わりましたが、考え方はほぼ引き継がれています。
本法案では、海上自衛隊・航空自衛隊等の増員所要に対応するため、364人の陸上自衛隊の常備自衛官の定数を振り替えることになりました。
しかし、陸上自衛隊では、2023(令和5)年度末において、約1万6,000人の欠員もあります。他方で、陸自部隊には米海兵隊と連携して島嶼部への侵攻に対処する役割を果たすことも求められています。ついては、陸上自衛隊の定員のあるべきレベルについて、どのような構想を持っているのか考えをお聞きします。
他方、無人機やサイバー攻撃などを駆使した現代戦においては、今以上に限られた人材を適切に配置する必要があるなかで、現行の定員や陸海空の人員バランスの抜本的な見直しを行う必要性があるのではないかと考えますが、ご見解を伺います。
【統合作戦司令部の発足】
統合作戦司令部の発足について伺います。
在日米軍の指揮権は、ハワイの米インド太平洋軍司令部が握っているため、日本側は在日米軍の作戦指揮権を持つ司令部を日本国内に置き、自衛隊との連携を強化するよう要望してきました。
このため、日本側は、この3月、陸海空の3自衛隊の各部隊を一元的に指揮する防衛省の常設組織「統合作戦司令部」を発足させましたが、トランプ政権が在日米軍再編を停止する可能性が報じられたため、日本側に懸念が生じていました。
もちろん、3月30日に行われた中谷防衛大臣との会談で、ヘグセス米国国防長官は、在日米軍の統合司令部への移行の第一段階が開始されたと発表しましたので、懸念は払拭された感がありますが、統合軍司令部の発足の時期は示されていません。そこで政府は、在日米軍の再編停止の懸念が完全に払拭されたと判断しているのか、また、その根拠は何かをお聞かせ下さい。
在日米軍の「統合軍司令部」の司令官は、自衛隊の統合作戦司令部と同格の大将ではなく、中将になるとされています。また、神奈川県に司令部を置く米海軍第7艦隊、在沖縄海兵隊を管轄する第3海兵遠征軍といった主要部隊を指揮する権限を持つことも定まっていません。
これでは、作戦運用の最終決定者は結局、インド太平洋司令官になり、調整の手間が増えるとの懸念が出ています。そこで、今後、どのような方策を取られるおつもりか、お聞かせ下さい。
大きな課題は、指揮統制の連携強化で自衛隊と米軍が一体的に運用された場合、有事に日本側の指揮権の独立性が果たして担保されるのかという懸念があることです。
米軍は自衛隊に比べ、圧倒的に多くの情報と装備を持つため、自衛隊が事実上、米軍の指揮統制の下に置かれるという懸念は拭いきれません。
そこで、例えトランプ政権から日米の指揮権を統一すべきとの要求があっても、従来通り、一貫してこれを拒否し、有事でも自衛隊と米軍がそれぞれ独立した指揮系統で行動することを堅持すると、確約いただけるかどうか防衛大臣に伺います。
3 同志国等との協力強化
【ACSA】
物品役務相互提供協定(ACSA)について伺います。
これまで、新たな国とのACSAが締結された場合、ACSAの国内実施法に締結国の国名を追加する等の改正を行ってきました。しかし、本改正案でACSAの国内実施法を共通規定化すると、今後は、法改正という形で、国会でチェックが出来なくなり、安全保障委員会で審査することも困難になりかねません。
そこで、締約国とはどこなのか法文上入れなくてよいという理由をご説明下さい。
政府は、共通規定化の目的として「国民への分かりやすさ」を挙げています。しかし、国会の審議を省略することで、「国民にとってわかりやすい法制」と言えるのでしょうか、見解を伺います。
2017年の日豪及び日英ACSAの国内実施法の審査の際(2017.4.21衆・安全保障委員会)、当時の稲田防衛大臣は、締約国ごとに別個の条文を規定する理由として、
(1) 豪軍及び英軍に対する物品、役務提供の根拠規定(自衛隊法第100条の8及び第100条の10)は、豪側及び英側それぞれとの議論を踏まえ、それぞれの相手国軍隊ごとに自衛隊が物品、役務を提供し得る活動類型のメニューを規定したものであって、結果的に内容が同じになったにすぎず、そのような立法経緯を踏まえれば、それぞれ別個の独立した条文とすることは自然である。
(2) 仮に、今後の日豪または日英間の議論により当該メニューに変更が生じた場合、第100条の8と第100条の10とで内容に違いが生ずる可能性もある。と答弁しています。
稲田防衛大臣が述べたこの理由は、本改正案における共通規定化とは逆の考えを述べていると考えます。政府は、共通規定化するに当たり、これらの課題をどのように克服し、結論を出したのか、説明をお願いします。
【新たに協定が締結された場合の国会対応】
今後、新たに物品役務相互提供協定を締結する国が増えた場合の政府の国会への対応について伺います。
今回の法案が仮に成立した場合にも、今後、外務委員会だけでなく、安保委員会でも従来通り、新締約国との間で締結されたACSA協定の国内実施に関し審議できることが極めて重要だと考えますが、この点に関する政府の基本的考え方を伺います。
最後に、世界の安全保障が激動する中、日本も前例のない事態に直面しています。我々政治家は、柔軟かつ慎重に対応し、日本の未来と国際秩序を守るため、今こそ責任ある議論を深め、確かな道を切り開いてまいります。
