9月27日、枝野幸男代表が「 #政権取ってこれをやる Vol.6~分配なくして成長なし!みんなを幸せにする経済政策」を発表しました。党の経済政策調査会長やアベノミクス検証委員長として政権政策のとりまとめにあたった江田憲司代表代行(経済政策担当)に立憲民主党の提案について聞きました。

日本経済低迷の最大要因

 われわれがアベノミクス検証委員会の報告書でも指摘した通り、アベノミクス時代、結局、実質賃金はずっと下がり続けました。2度にわたる消費税増税もあり、消費が伸びなかった。GDPの5割以上を占める個人消費が伸びないことが低成長の根本的な原因です。そこにしっかり対応する策を出そうというのが政権政策の1番のポイントになります。

 消費を伸ばすためには国民の懐を温かくする、可処分所得を伸ばすことが大事なので、大まかに3つの方法を提示しています。1つ目が減税と給付金。2つ目がベーシック・サービスの充実で、3つ目が最低賃金の引き上げを含む「働き方改革」です。

可処分所得を伸ばす3つの方法

  1. 減税と給付金

     コロナ禍の対策と、コロナが収束した後の通常モードになった時の対策の2段階に分けました。コロナ禍の対策としては、まず年収1千万円程度までの人たちの所得税を実質免除、ゼロにします。これは昨年の、国民全員に対する一律10万円給付でさえ、その手続きに時間がかかり、混乱した反省を踏まえ、即効性のある方法で、それと同様の効果が及ぶようにする施策です。この所得層の大部分は、源泉徴収のサラリーマンが占めており、法律を改正するだけで給付手続きもなく実行できるのが利点です。そして、非課税の皆さんには、消費税増税を行った際の「臨時福祉給付金」のような給付金を年額で12万円現金支給します。そしてコロナが収まって、通常モードになった時には、今度は時限的に消費税を5%に減税し消費を喚起し、本格的な景気回復を目指します。

  2. ベーシック・サービスの充実

     人間が生きていく上で不可欠なサービス、例えば医療や介護、子育てや教育といったベーシック・サービスに予算を重点的に配分していきます。こういった政策にはそれぞれ目的があります。しかし経済的な観点から見れば、お金に色はありません。ここに税金を重点投入することによって、間接的に国民の懐が温かくなるという発想です。

  3. 最低賃金の引き上げを含む「働き方改革」

     アベノミクス下では、株主偏重の資本主義が横行し、特に大企業ほど労働分配率(企業の利益に占める人件費の割合)がどんどん下がりました。経済状況を見つつ、まずは最低賃金を数年間かけて徐々に引き上げ、将来的にまっとうな生活ができる水準にまで引き上げていきます。最終目標としては時給1,500円を掲げています。この水準の根拠ですが、私の試算では、時給1,500円で税込年収で大体260万円~280万円ぐらいとなります。そこから税金や社会保険料を引くと手取りが240~250万円になり、やっとそれでまっとうな生活ができる最低水準になると思います。ただここは気をつけながらやらなければいけません。いきなり引き上げてしまうと、倒産も増加したりして、雇用が維持できないという負の側面も出てきます。ここは韓国やイギリスで実際に引き上げた例を参考にしつつ、中小零細企業を中心に国が補助金などでしっかりと支援しながら、段階的に引き上げていくつもりです。

     また行き過ぎた労働者派遣法の見直しなども視野に、基本的な「働き方」は「正規」を基本に据え、短時間労働者が希望する正規の仕事に、なるべく就いていただくようにしていきます。

     アベノミクス下で「有効求人倍率が増えた」と政府は言っていますが、実際には、多く増えたのは非正規、短時間労働者です。例えば主婦の皆さんが、夫の給料だけでは家計が苦しいから「パートでもいいから」と働きに出ざるを得ない。お年寄りも年金の額が少なくて貯金もなくなってきているから働くしかない。そういう意味で、結局、短時間労働者・パート等の皆さんが数的に増えているから総雇用者報酬も増えている。しかしそれでは「幸せになれない」というのが、われわれの主張です。

     この20年来、どんどん労働者派遣法が緩和されてきて、小泉総理の時は製造業にまでその対象を拡大しました。2008年には「年越し派遣村」のようなものができるような状態で、十分なセーフティネットの整備もなく緩めてきた経緯があります。だから派遣法も、例えば一部の高いスキルを持ったプログラマーなどフルで働く必要のない職種に限定してやっていく——というやり方もあります。それからやはり派遣をされて、一定年月が経ったら正規職員に採用する義務を強化するといった考え方もあると思います。そういった形で、「あくまでも働き方は正規が基本で、非正規は例外」という位置づけを明確にし、派遣法も見直していくべきです。

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コロナ禍後に超大企業や富裕層に「応分の負担」を求める

 こうした政策には財源が必要ですが、今回、野党としては異例のことですが「増税」を訴えています。より具体的には、超大企業や富裕層に対する優遇税制の是正です。要は大企業が法人税を一番負担していません。所得税についても、所得1億円超のお金持ちほど負担率が低いという実態があります。

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 財務省の資料を基に作成したこのグラフを見ていただくと分かるように、資本金100億円超の超大企業が、法人税を一番負担していません。超大企業には各種減税措置が適用されるので、こんなに低いのです。だから、この不公平を正していく。試験研究費や省エネ投資に係る減税など、必要な政策減税は残していきますが、この法人税に、例えば、企業の規模によって10%~40%の累進税率を入れていく。そうすると、超大企業は40%ですから増税になりますが、中小零細企業は10%ですから、逆に減税になる。トータルでみれば、やはり超大企業の方が利益を出しているので、数兆円の増収になるというのがわれわれの試算です。

 一方で所得税についても、これは「1億円の壁」と称されるのですが、所得が1億円を超えると、所得税の負担率がどんどん下がっていく。1億円を超える所得層には、株式から収入を得る人が多いからです。ところがこの株で得たお金(株の譲渡益や配当)には、本体所得と分離して、たった20%しか税金がかかっていません。そこをせめて国際水準並みの30%にする。将来的には、さらに総合課税——要は分離課税ではなく——本体所得と合算した総合課税にしていきたい。また、現在、所得税の最高税率は45%ですが、、75%という時代もありました。そこまで上げるとは言いませんが、せめて50%には上げていく。誤解なきように補足すると、超大企業や富裕層に過大な負担を求めるのではなく、あくまで、担税力のある、税金を支払う能力のある方々に「応分の負担」をお願いしたいということです。

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 社会保障政策というのは、所得再分配機能がある政策です。そこに逆進性のある消費税、低所得の人ほど重税感のある税金を充ててしまうこと自体が矛盾しています。社会保障費が将来にわたって増大していくことはその通りですが、それを消費税だけにもとめるのではなく、法人税や所得税にも求めるべきでしょう。これは、法人税や所得税の増税を嫌がる超大企業や富裕層を支持基盤にしている自民党にはできないことです。立憲民主党は、働く者の立場、消費者・生活者の立場に立つ政党です。その意味では、こういう不公平税制、優遇税制を正していくことで財源を出していくというのは、まさに立憲民主党らしい考え方だと思います。無駄遣いの解消も必要ですが、そこから捻出できる財源は不確かです。しかし、これは税法を変えるだけで可能となるのです。

「分配なくして成長なし」

 要は、コロナ禍の政策と、コロナが収束した後の通常モードの政策と2つのフェーズ分け、コロナ禍での支援策である所得税の減免や給付金などは、国債を増発してでも実行するということです。財政よりも国民の命や暮らしを優先する。そして通常モードになった時には、最低賃金を引き上げたり、財源付きで消費税減税も提案する——という考えです。こうした点を総選挙では、しっかりと訴えていきます。

 これは総じて言えば「分配なくして成長なし」ということです。実はここ数年、OECD(経済協力開発機構)やIMF(国際通貨基金)といった国際機関でも、いわゆる分配を強化することが成長につながる、ということを言い出しています。それからバイデン米大統領も、われわれと同じように富裕層や超大企業から税金を取って、社会保障やインフラ投資に回すという提案をしています。われわれが提案していることは、国際潮流にも合致しているのです。決して「アンチビジネス」ではありません。

 なぜ「分配」が「成長」につながるのか。OECDなどの論文では、分配を強化して格差を是正したり、貧困を根絶すると、教育水準が上がって技術革新やイノベーションが生まれ、それが成長の原動力になると書かれています。また、分配をするとその分、国民の懐が温かくなるので、消費が伸びて成長につながっていく、こういうロジックです。経済成長と分配というのは二律背反ではなくて、まさにシンクロナイズして、分配を強化することが成長につながる。これが国際社会でも主流の考え方になりつつあるのです。

 また、成長には「全要素生産性」、つまり、技術革新が必要ですが、今や、日本のポテンシャルがどんどん低下しています。先端的な論文の数やその引用数においても、中国や米国にどんどん置いていかれているのです。1つの大きな要因が、研究開発の一番の原動力、国立大学への運営費交付金が、近年、大きく減らされてきたという事情があります。結果、大学運営の共通経費で取られてしまって、その分、研究費に回る余地が少なくなっているということです。その代わり、政府は、いわゆる「競争的資金」、研究者に申請を競争させて受け取ることができる資金を増やしました。しかし、研究者にとっては、その競争的資金を申請するために多大な労力と時間が取られている——というのが実情です。要は、研究開発費も削られるし、研究時間も制約され、研究開発力がどんどん劣ってきているということです。

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 かつて、日本の花形産業であった半導体産業は競争力を失い、今や、台湾や中国に席巻されています。今の稼ぎ頭は自動車産業ぐらいだと思いますが、自動運転や電気自動車の分野などでは、すでに諸外国に遅れを取っています。どうやってこの先、先端分野でご飯を食べていけるのか。

 したがって、立憲民主党は、特に、基礎(基盤)研究をしっかりと強化していきます。国立大学への運営費交付金を増額し、研究者本人が申請などの雑務にあまり追われすぎないように、研究補助者も増やしていくつもりです。研究費を増やし、研究環境も整えていく。やはり将来につながる産業を創出していくためにも、研究開発力は増強していかなければなりません。

「地域分散・分権型経済」の実現

 最後に、立憲民主党は、より大きなビジョン、コロナ禍後の経済の姿も打ち出しています。それが「地域分散・分権型経済」の実現です。要は、地域のニーズに応じて、地場産業をネットワーク化し、地産地消の内需主導の地域経済を実現していくという提案です。

 例えばこれからも非常に需要が多く、しかも供給が遅れている分野——少子高齢社会における医療や介護サービス――といった分野は、これからもその供給を、どんどん増やしていかなければいけません。例えば、「かかりつけ医(家庭医)」をキーステーションに、医療や介護、福祉、訪問看護等の地域ネットワークをつくり、よりきめ細かく、地域住民のニーズに応えていく。そこから新たな企業も生まれます。

 また電力、エネルギー、特に再生エネルギー(再エネ)——こういった分野は、太陽光にしても風力にしても、地域ほどポテンシャルがあります。そうした地域に根差した小規模再エネルギー会社を作っていく。

 農業も、その地域に根ざした、多面的な機能を尊重しながらも、なるべく小規模農家も含めて、ネットワーク化していく。例えば温室ハウスなどの小規模な農家は、それぞれネットワークでつなぎ、そこで一体的にエネルギー管理をしたり、販売も一体的におこなっていき、小規模農家でも安心して食べていけるようにする。

 いわゆる地域の医療や介護、それから電力・エネルギー、それから農業――そういった分野の地域ネットワークを構築し、そこに新しい企業、会社を作っていき、所得と雇用を生み出す。これはまさに内需主導ですから、国際競争の荒波に揉まれることなく成長させることができます。そして、それを実現するために権限と財源を地方に移譲していく。それが地方分権です。こうして、地域分散・分権型経済を作って、将来に向けて持続可能な国造りをしていくことが是非とも必要なのです。

(9月28日取材)