立憲民主党は11月22日、旧統一教会被害対策本部・内閣部門(消費者問題)合同会議を国会内で開催し、政府が示した被害救済・再発防止のための寄附適正化の仕組み(新法概要)について消費者庁からヒアリングを行いました。これを受け、旧統一教会被害者と弁護士連絡会の方から新法概要について評価・意見をヒアリングしました。

 政府の新法概要は15日に示され、同日の国対ヒアリングや立憲・維新・自民・公明の与野党4党協議では、(1)いわゆるマインドコントロール下の寄付は対象外(2)家族取消権も損害認定をしやすくした程度で、献金した本人が無資力でなければ使えない(3)取り戻せるのも全額ではなく扶養請求権等の範囲内に限定される(4)消費者契約法と新法の要件の条文がほぼ同じ――などと問題点を指摘していました。

 会議の冒頭、西村智奈美対策本部長はあいさつのなかで、新法概要について「被害者を救済できないのではないかという疑いが極めて強い」と指摘。まだ概要の段階であり、与党の審査もこれからであることから「(政府には)私たちの声も聞いていただいて、概要を変えていただきたい」「何の役にも立たないことは弁護士連絡会の先生方からもご指摘のある通り」だと述べました。その後、消費者庁から改めて新法概要について説明を受け、出席議員と質疑応答を行いました。

■母が1.5億円超の寄付をし、損害賠償を求めている中野容子さん

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中野容子さん(プライバシー保護のため首より下のみ撮影)

 中野容子さん(仮名)は、60代の女性。本人と父は信者ではなく、母が少なくとも2004年に入信し、2015年までに本人の資産のほか、父親の金融資産や果樹園を数回に分け売却した代金など1億5千万円を超える金額が教会の物品を購や寄付などに充てられていました。損害賠償を求め提訴しましたが敗訴。最高裁に上告しています。

 中野さんは、新法概要の「対象」について、個人から法人への寄付を対象としているが、法人格のない信徒会という団体がお金を預かったなどと言い、教会は関係がないと言い逃れするのではないかと指摘しました。

 「寄附に関する規制」の「寄附の勧誘に関する一定の行為の禁止」については(1)母の場合、記録も残しておらず、認知症を発症しそのような行為が行われていたのか判断が不可能だった(2)寄付や献金は本人の自由意志によって行ったものであり、返還請求や損害賠償請求などを行わないとする念書と陳述書に押印したことから、念書の取り付け自体を禁止すべき――などと指摘しました。

 「借入れ等による資金調達の要求の禁止」については、(1)母の場合は、信者個人にもお金を貸し返してもらえないまま(2)居住する建物等の処分による調達の要求を禁止しているが、母が売却した果樹園は被害とみなされない。また裁判では「住宅と年金があった」との教会側から被害を矮小化するような主張があった。さらに金融資産の多くが証券会社にあったのでこれも防げないのではないか――などと話しました。

 「寄附の取消し」については、取消権行使は最長でも10年であることから、母の場合、非常に高額の献金を立て続けにしていた頃の分は、中野さんが気がついた段階で「時効」のようなものになってしまうと述べました。

 「子や配偶者に生じた被害の救済を可能とするための特例」については、中野さんは子ではあるが新法概要には該当せず取消権の行使はできないと述べ、母は認知症を発症し、損害賠償請求の交渉や裁判は代理人になり行い、後見人を務めていたが、親族など本人以外が請求できる法律があれば、心身の衰えた高齢信者の被害回復がしやすくなるのではないかと話しました。

■弁護士連絡会の木村壮弁護士

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 全国霊感商法対策弁護士連絡会の木村壮弁護士は、中野さんの事例に基づいて新法概要の問題点を指摘しました。

 「寄附の勧誘に関する一定の行為の禁止」について、「重大な不利益を回避できないとの不安をあおり」とあるが、(1)誰にどういう不利益が生じるかまでは特定できない(2)それぞれの寄付について立証が必要だが、中野さんの母親の場合、30回の献金について、不安をあおったか、不安をいだいていたかの立証は困難(3)不安や恐怖を利用して献金の必要性を教え込んでいくと、不安をあおらなくても言われるがまま献金する状態になっていく(3)念書の作成によって、事後的に不安をあおられたことはなく、不安を抱いていたこともないと装われるおそれがある――などと指摘しました。

 禁止行為の「寄附することが必要不可欠であることを告げること」については、「自身の罪と先祖の因縁を精算すべく1300万円を献金することを『提示』した」事案について、ビデオセンターでの受講を通じ、献金しなければ「悪影響を及ぼすことなどを『学んだ』」として、不可欠と告げなくても違法性を認めたことを挙げ、不可欠であると告げる必要があるなら、本件も取り消し不可となり、また、具体的な発言を特定できない場合には取り消しの可能性はないことになると指摘しました。

 「借入れ等による資金調達の要求の禁止」については、果樹園を売却させられ、合計7千万円超を教会に渡したが禁止行為の対象外になってしまうと指摘。土地売却の全過程を教会信者が主導しているが、指示の立証は困難であり、寄附資金が売却によるものであると教会が把握していても、禁止行為のには触れないため適法に受け取ることができてしまうと述べました。また、寝たきりの夫(中野さんの父)の財産から8千万円を超える献金がなされたが、こうした家族の財産からの献金の勧誘が、禁止行為・取消対象とされていないと指摘しました。

 取消権行使の期間については、意思表示から10年とされていますが、中野さんの場合、2015年に退会の意思表示をし脱会したことから、2004年の献金は対象外になると述べ、「献金に反対しそうな家族には秘匿するよう指示した場合でも取り消しはできなくなる」と指摘しました。

 家族取消権については全額ではなく扶養請求権等の範囲内に限定されると新法概要にありますが、中野さんの場合は既に独立しており、取り消しができないと指摘。さらに収入の無い専業主婦の場合には、子が未成年であったとしても扶養義務が発生すると言えるか疑問であり、また夫が妻の献金を取り消せるのか疑問だと述べました。

 対策本部事務局長の石橋通宏参院議員は、「今日の話をうかがっても、これではもう、まるで旧統一教会救済法案」だと指摘。「これ(政府の新法概要)では絶対に駄目なんだと、しっかりした訴えかけをしていきたい」と語り、会議を終えました。

※今回の会合は、これまで同様、被害者保護の観点から顔出しは無しとし、ライブ配信や録画の配信は不可としています。