参院本会議で10日、菅総理出席の下、「所得税法等の一部を改正する法律案」及び「財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律の一部を改正する法律案」(特例公債法案)について麻生太郎財務大臣から趣旨説明を受け、立憲民主党の財務金融部会長を務める牧山ひろえ議員が会派を代表して質問しました。

 牧山議員は、緊急事態宣言の再延長について触れ、「菅総理は1月の宣言発令時に『1カ月後に必ず事態を改善させる』と表明したものの、2月に1カ月延長を決定。その際も『1カ月ですべての都府県で解除できるようにする』と述べたが、今回もその約束を果たせなかった。 延長自体は是とするにせよ、十分な根拠の説明もないまま、2度も延長し国民の期待と信頼を裏切った政府の責任について、総理はどうお考えか」と迫りました。
 菅総理は、新規感染者は減ったものの、病床のひっ迫等の状況から結果的に解除できなかったことは大変申し訳ないと述べ、まずは対策を徹底して2週間で解除できるように取り組む意向を示しましたが、具体策については言及しませんでした。

 牧山議員は、「変異株も拡散の兆しを見せている中、何よりも警戒しなければならないのはリバウンド。政府が進めてきた『withコロナ』では、感染抑制と拡大の波が繰り返され、社会経済活動の制約は長期にわたり、国民生活や社会経済活動に深刻な影響を与える」と懸念を示し、「感染防止対策と医療支援、そして生活者・事業者支援を集中的に展開し、感染拡大の波を十分に収束させ、その状態を継続させることで感染を封じ込め、早期に通常に近い生活・経済活動を取り戻す『zeroコロナ』の道を選択すべきだ」と主張しました。立憲民主党が『zeroコロナ』の考え方に基づき、衆院予算委員会に共同提案した本予算への組替動議を与党が一顧だにせず否決したことを取り上げ、「安倍内閣以来の政府与党には、形式的に審議を進めるだけで、国会での熟議により少しでも国民のためになる政策にしていこうという意欲が全く見受けられない。総理はこの国難とも言えるべき状況を克服するために、立場の違いを超えて国民の叡智(えいち)を結集するおつもりはないのか」と問いかけました。
 菅総理は、「野党の意見を聞くのは重要」と認め、政府・与野党連絡協議会の枠組みについて説明しましたが、今後の与野党協議については明言しませんでした。

 続けて牧山議員は、「zeroコロナを推進し、封じ込めに成功しているニュージーランドや台湾には、国民が政府に対する強い信頼感を持っているという共通点がある」「新型コロナ対応が高い実効性を確保するためには、この信頼感は必須。ワクチン接種に関しても、属性や地域による差異が不可避であり、かつ副反応の懸念も払拭しえない以上、円滑に進めるために『信頼』は欠かせない」と論じました。その上で、この間の総務省や農水省の違法接待、与党議員による緊急事態宣言中の相次ぐ夜の遊興、河井元法務大臣夫妻による大規模な選挙違反、秋元衆院議員のカジノIR収賄などが国民からの信頼を裏切るものだと批判しました。そして、森友学園問題で公文書の書き換えの経緯が綴られたいわゆる赤木ファイルの公開、違法接待に関する全省庁を対象とした調査を菅総理に求めました。
 菅総理は一連の不祥事について「信頼を大きく損なったことは深く反省」していると述べましたが、赤木ファイルについては訴訟中のため公開を控えるという従来の主張を繰り返し、接待に関する全省庁調査についても言及しませんでした。

■所得税法等の一部を改正する法律案

 牧山議員は、「税、国債等の歳入に関しても直接的、間接的に国民に負担をお願いするので、政治に対する信頼が必要不可欠」と述べた上で、政府案に所得再分配機能の低下を改善するための抜本改革が欠けているという視点で質問しました。

 新型コロナウイルス感染症の影響により、「中小企業の休廃業等や失業及び実質的失業が増加する一方で、株式市場の経済の実態とは異なる株高によって膨大な利益を得た者も多かった」と格差問題は一層深刻になってる状況に懸念を示しました。こうした状況に対し政府は「税制の所得再分配機能を強化し、格差是正に向けた税体系の抜本的な見直しに取り組むべきだ」と主張し、政府の税制審議会で所得再分配機能の回復に向けた税制のあり方について、新たな諮問をする等、政府内の検討を求めました。

 法案が大企業・高所得者優遇の税体系を温存する最たる例が金融所得課税だとし、「わが国では、金融所得課税の大半が税率20%の分離課税となっているため、年間所得1億円を超えると所得税の負担率が低下する傾向がある」と指摘しました。その上で、所得分配機能を高めるため、立憲民主党が繰り返し主張してきた総合課税化を改めて求めました。

 2023年10月から導入される「インボイス制度」について、過重な事務負担を事業者に強いることになるばかりか、免税事業者が取引過程から排除されるリスクもあることから、現行方式の当面維持も含め、制度の見直し、柔軟な運用を求めました。住宅ローン控除の特例の延長については、持ち家に対する支援ばかりでなく、家賃補助制度を創設するなど、賃貸住宅向けの支援策も重要だと指摘し、宅政策のあり方を総合的に検討し、家賃補助制度などに取り組むよう求めました。

■特例公債法改正案

 次に、今後5年間にわたって特例公債の発行を可能とする根拠規定等を設ける特例公債法改正案について、国家が行う財政活動は財政民主主義の観点から国会で審議、議決するのが原則であり、憲法が予算について単年度主義を採用している以上、予算・税制・国債発行を同じタイミングでその都度議論することがあるべき姿だという観点から質問しました。

 2012年度改正において、特例公債の発行期間が複数年度とされたのは、ねじれ国会という特殊な事情を踏まえた政治的な合意を背景に実施されたものであり、衆参のねじれが解消しているのであれば、特例公債の発行を複数年度とする理由はもはやなく、単年度立法に立ち返るべきではないかとただしました。

 財政健全化について、「2016年の法改正時に麻生財務大臣は『不退転の決意で2020年度のプライマリーバランス黒字化に取り組む』と国会で答弁していたが、その約束を果たさないまま、ほぼ同じ内容の法案を提出しておられる。今回の改正案にも『財政の健全化に向けて特例公債の発行の抑制に努める』旨規定されているが、私たちはどのような根拠で大臣を信じればよろしいのでしょうか」とただしました。麻生大臣は、2025年のプライマリーバランス黒字化に向け歳出改革等に取り組み、経済再生と財政再建の両立を目指すと述べましたが、具体策については説明しませんでした。

 牧山議員は、コロナ禍において「国民の生命や生活を守るため、特例公債を発行することは必要だが、際限のない赤字国債の発行を抑制するためにも、国会の監視機能をむしろ高めるべきだ」と主張し、質問を結びました。

牧山議員所得税法・公債特例法要旨・原稿(予定稿).pdf

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