参院本会議で6月2日、「行政手続きにおける特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律案(マイナンバー法案)」に対する討論が行われ、立憲民主党から杉尾秀哉議員が反対の立場から討論しました。

 杉尾議員の討論の内容は以下のとおりです。

 マイナンバーカードを巡る深刻なトラブルが次々と明らかになり、マイナンバー制度に対する国民の信用は地に落ちました。共同通信の最新の世論調査では、マイナンバーカードの活用拡大に「不安だ」という人が、実に70%にも達しています。
 こうした状況にもかかわらず、今週水曜日に法案の委員会質疑が打ち切られ、討論と採決が行われました。
 国民の「命と健康」や、「個人情報保護」などを巡る不安の声にできる限り応え、「熟議の府」の参議院らしい、充実審議を求めて来た私たちの声が踏みにじられたのは残念でなりませんし、また、断じて許されるものではありません。
 ここに、「満腔(まんこう)の怒り」を込めて抗議します。

 事の発端は、マイナンバーカードを使ったコンビニの証明書交付サービスで、別人の住民票が誤って交付されているのが発覚した事でした。
 最初は小さな報道でしたが、その後、参議院での審議が本格化するにつれて、徐々に問題が拡大。マイナ保険証での別人の情報への紐付けから、マイナンバーと預貯金口座を紐付ける公金受取口座の「登録ミス」。さらには、マイナポイントの「別人への付与」など、トラブルの連鎖が続きます。
 これまでに分かっているだけで

・コンビニでの証明書サービスの誤交付が、住民票、戸籍の一部と、印鑑登録証明書など 8つの自治体で27件
・マイナ保険証での別人の個人番号との紐付けが7312件で、うち薬剤情報などの閲覧事例が5件
・公金受取口座の登録ミスが14自治体20件
・マイナポイントの誤付与が90自治体113件

などとなっています。

 現在、各自治体や健保組合などで件数やデータ等を精査中ですから、トラブルの全貌は未だ「闇の中」、まさに「いつまで続くぬかるみぞ」です。

 しかし、これだけ深刻な事態が次々と発覚しても、河野大臣を始めとしてデジタル庁や総務省、厚労省など担当者の答弁は、すべて「他人事(ひとごと)」のよう。口先では反省の意を示し、深刻な「風」を装いながらも、システム業者や、現場の自治体、保険者、それに共通端末の操作を誤った住民など利用者らに、責任を転嫁するかの如き「弁解」に終始したのは、まことに遺憾と言わざるをえません。

 さらに深刻なのは、これらの重大なトラブルが、去年の春から夏ごろまでの段階で、各自治体から総務省やデジタル庁に報告されていたにもかかわらず、情報共有が担当者止まりで、大臣はおろか幹部にも報告が上げられていなかった「らしい」ことです。
 もちろん、大臣や幹部が知ってて公表しなかったら大問題ですが、今年の5月の一連の問題発覚まで、大臣や幹部が「知らなった」というのは、もっと大問題。まったく「組織の体」をなしていません。
 ひたすらマイナンバーの用途拡大と、マイナカードの普及に血道をあげる河野大臣らに、担当者が「忖度」したのかも知れませんが、上司にも報告せず、国民にも知らせず、こっそりと「システム改修」などトラブル処理を進めていたのは、事実上の「隠ぺい工作」と言われても仕方ないでしょう。
 委員会での質問に対する、河野大臣や、政府参考人の「知らなった」という答弁の連発を聞いて、私はまさに「開いた口」が塞がりませんでした。と同時に、こんな組織には国民の大事な個人情報は任せられない、とも思いました。日本の官僚機構は一体どうなってしまったんでしょうか?

 問題の根底にあるのは、政府が今年3月末までに「全国民にマイナカードを行き渡らせる」という目標を掲げ、交付率UPを遮二無二目指して、総額2兆円もの予算を投じたマイナポイントや、期限を切った健康保険証の廃止などの諸施策を強引に進めて来た事にあります。そうした拙速な政策のツケが、ここに来て一気に噴き出したと言わざるを得ません。

 また、さまざまなトラブルが続発する中で浮かび上がったのが、マイナンバーというシステム自体が抱える根本的な問題です。これは決して「偶然」ではありません。
 利活用の範囲をどんどん広げた結果、付随するシステムのバグや人為的ミスなどが次々と発生。その都度、対処療法で済まそうとしているのは、まるで「モグラたたき」のよう。
 事態の深刻さを把握しようともせず、無責任な対処療法を繰り返す政府に、世界でも例を見ない、前代未聞の「マイナンバー」という巨大システムを果たして適切に運用出来るのか、国民の不安と疑念は膨らむ一方です。

 こうした一連のトラブルの中でも、国民生活に最も重大な影響を与えかねないのは、「マイナカードと保険証の一体化」と「健康保険証・廃止問題」です。
 そもそも、カードの取得自体は申請主義で、任意であるのに、国民皆保険の下での健康保険証を一方的に廃止し、不利益を生じさせることは断固として認められません。とりわけ、障がいがある人や、介護を必要とする高齢者など、社会的に弱い人たちを、より困難な立場に追い込みかねない極めて深刻な問題です。

 実際の医療現場では、マイナ保険証を巡る混乱が続いていて、例えば全国保険医団体連合会の最新の調べでは、オンライン資格確認システムを運用している医療機関の、何と59.9%で「他人の情報がひも付けられていた」などのトラブルが発生。また、保険加入の資格が確認出来ず、窓口で医療費が全額自己負担となったケースは実に393件にも上るそうです。
 それでも今はまだ、紙の保険証で確認できるから何とかなりますが、来年秋に保険証が廃止されたら、いったいどんな混乱が起きるのか、想像するだに恐ろしい。また、入所者の保険証を預かる所が多い高齢者施設では、94%が「マイナカードの管理が出来ない」と回答しています。さらには、廃止後の健康保険証に変わる「資格確認書の運用も、全てはこれからとのことで、幾ら何でもこれでは出鱈目過ぎないでしょうか?

 政府の一連の対応に、今、医療現場には「不安と怒り」や「抗議の声」が渦巻いています。
 こうした、国民皆保険や地域医療の崩壊にもつながりかねない施策を、私たちは絶対に認める訳にはいかない。来年秋の健康保険証・廃止方針を撤回するか、さもなくば保険証に代わる「資格確認書」を、全ての国民に職権で交付すべきです。

 なお、今回の「束ね法案」には、マイナンバーの「なし崩し的な用途拡大」や、公金受取口座の登録促進のために、一定期間内に「登録不同意」の回答がなければ自動的にマイナンバーと口座を紐付けすること。さらには、戸籍などの記載事項へ氏名のフリガナを追加する項目も盛り込まれていて、これらの法改正が、地方自治体や国民に与える影響も看過できません。
 もちろん、一連の法案の中には国民の利便性向上につながり、賛同できるものもある事は事実ですが、それ以上に懸念点が多すぎ、国民に対するデメリットの大きさを考えると、こうした法案審議のやり方、そのものに「重大な疑義」があることも申し添えておきます。
冒頭述べたマイナ保険証の誤登録や、マイナポイント、公金受取口座など一連のトラブルを受けて、岸田総理は河野大臣に対してデータやシステムの総点検などの徹底を指示しました。
 また、マイナ保険証の別人登録でも、厚労大臣が医療保険者に対して、全ての加入者データの点検を指示したばかりです。
 そこで、口を酸っぱくして申し上げますが、これらの作業が進められているさ中に、法案を可決・成立させるべきではありません。
 まずは、ここでいったん立ち止まり、制度の不備など実態を把握し、トラブルの全容を解明した上で、再発防止のための対策について再検証すること。そして、何より、問題の根底にあるマイナンバー制度とマイナカードに対する国民の「不安と不信」を解消することが先決です。

 そのためにも、政府にはマイナカードの運用を一旦停止する位の勇気を持っていただきたい。
 「天下の愚策」である保険証廃止方針を撤回して頂きたい。
 それまでは、法改正を急ぐべきでは、絶対にありません。

 今回の一連の審議の過程で、「誰一人取り残さないデジタル化」という政府のスローガンが、全く空疎なものであることがハッキリしました。
 私たちこそが、真に「国民のための行政」と「社会のデジタル化」を推進する政党です。
その事を強く強く申し上げて、私の「反対討論」と致します。

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