参院本会議で6月16日、「我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法案」について、柴愼一議員が反対の立場から討論しました。

 本法案に反対する理由は、財源論の前提となる今後5年間で総額43兆円、GDP比で2%に引き上げるとする防衛費の増額が、身の丈に合わない過大なものと考えるからです。政府は「現実的なシミュレーション」を通じて予算を積み上げた結果、この額になったと主張しますが、その「シミュレーション」が具体的にどういったものなのか、委員会質疑で何度問うても、遂に詳細を明らかにすることはありませんでした。

 法案の了承を求めるのは政府の側です。予算総額の算定根拠を具体的に示さず、ただ額面だけ認めろといわれても、賛成できるはずがありません。いくら安全保障には機密性が重要だとしても、これでは国権の最高機関である国会軽視と言わざるを得ず、国民への説明責任を果たそうとする姿勢も見られません。

 国会において、真に必要な防衛力に関する深い議論ができないならば、そのための財源論の議論など、深めることが出来るはずもありません。

 本法案は防衛財源のうち「税外収入1.5兆円」を確保するものですが、令和5年度予算において、本法案で措置する以外の税外収入3.1兆円が繰り入れられており、今年度の防衛予算の執行に何も問題がないことが、既に証明されています。進行年度である令和5年度の外為特会の剰余金を本法案によって先取りする必要も全くありません。つまり本法案は廃案にしても何も問題は生じないのです。

 防衛予算を総額ありきで議論を進めた結果、政府が苦し紛れに提出した財源案には、当然ながらいくつもの綻びが生じています。

 政府は、「税外収入」、「決算剰余金」、「歳出改革」、そして「税制措置(増税)」という4つの財源を、すべて防衛費増額のために投入するとしていますが、まず何よりもその額の見積もりが、あまりにも甘いことを指摘しなければなりません。

 委員会審議でも再三指摘されたように、「決算剰余金」は直近10年間の平均から毎年0.7兆円(7000億円)ほど生み出せると政府は想定しますが、コロナ禍で膨らんだ令和2年度の決算剰余金の「異常値」を含んだ平均値を安定財源だという政府の主張に全く説得力はありません。

 また政府は、防衛費の増額分の財源に赤字国債は用いないと強弁しますが、通例、決算剰余金は補正予算の財源として利用されており、決算剰余金を防衛費の財源にするとなれば、補正予算を組むときに結果として赤字国債を発行せざるを得なくなります。防衛財源には事実上国債が使用されるのです。

 加えて、決算剰余金のもととなる予算には国債が含まれており、赤字国債ロンダリングとのそしりを免れることは出来ません。

 「歳出改革」についても、委員会で何度も指摘された通り、政府は「歳出削減」ではなく、物価の上昇等で見込まれる予算の伸びを防衛費に振り替えているだけで、実際に何かの歳出を削って防衛費を捻出しているわけではありません。

 来年度以降、いかなる「歳出改革」を行い、財源を確保するのか、全く見通しがついていない中で、5年間で総額約3兆円あまりの金額を見込むのは、財源論としてあまりに無責任です。

 東日本大震災の復興財源フレームは、歳出削減についても具体的な予算項目をあげて計上していました。当時の政府の財源に対する真摯な態度を見習い、現政府は法案を出し直すべきです。

 そしてなにより「税制措置(増税)」については、復興特別所得税のスキームを流用し、実質的に増税なのに、あたかも負担が増えないと見せかける、悪質きわまりない措置です。これは被災地の方々のみならず、税を通じて被災地の復興を支援しようとしてきた、全ての納税者に対する裏切りに他なりません。

 福島での地方公聴会では、復興財源に影響がないことは理解した上で、苦しく複雑な思いを聞かせていただきました。被災地・被災者のみなさまにそんな思いをさせてしまっていることを政府はどう認識しているのでしょうか。

 また、たばこ増税は、取りやすいところから取っているだけで、それがなぜ防衛費に回されるのか、何の理屈もありません。目的税としての税の理論は完全に崩壊しています。

 加えて先に明らかになった「骨太の方針原案」には、税外収入の上積みやその他の追加収入を含めた取り組み状況を踏まえ、増税時期を柔軟に判断する、とされるとともに、新型コロナウイルス対策で膨張した歳出の構造を「平時に戻していく」との方針が示され、決算剰余金の見積額が確保できないことが容易に想定できます。法案の審議をしている最中にその議論の土台をなす政府方針がぐらぐらと揺らいでいるのです。

 それらの検討を踏まえて、法案を出し直すべきです。

 総額ありきの防衛費増額のために、あらゆる財源をそこに投入すれば、結果として他の政策を実行する財源確保に重大な影響が生じます。

 最も象徴的に現れているのが、先に決定された「こども未来戦略方針」での財源です。政府は少子化対策の具体的な財源を示すことができず事実上先送りしたのみならず、当面の財源を「つなぎ国債」の発行を通じて賄うことを示唆しています。

 防衛費増額のシワ寄せが、これこそまさに「有事」とも言える少子化対策のための財源確保に、深刻な悪影響を及ぼしていると言わざるを得ません。

 結局、防衛費の世界でだけ国債に頼らないと言って、財源が確保できたように装っても、財政全体で見れば国債発行に歯止めはかからず、我が国の財政余力は確実に損なわれていくのです。

 財政余力の棄損は、安全保障上の有事となれば事態は深刻です。財務省自身も、有事の際の資源や防衛装備品確保に伴う財政需要の大幅な拡大に対応するためには、国際的な市場の信認を維持し、必要な資源を調達する財政余力の重要性を認識しているとのことですが、実際にやっていることは真逆です。

 防衛力確保と少子化対策は、与野党の別なく、どちらも我が国にとって極めて重要な政策課題です。財政余力を確保しつつ、どちらの課題にも的確に対応していくためには、防衛費と少子化対策の予算規模と財源を、一体的に検討することが必要です。

 立憲民主党は、現下の安全保障環境の変化に基づく問題意識から、真に必要な予算を積み上げた結果として、防衛費の一定の増額につながっても理解できるとしてきました。しかし5年間で43兆円という巨額の防衛費増額は、身の丈に合わない過大な防衛費と言わざるを得ません。

 また、政府与党が容認したスタンドオフ防衛能力等による「反撃能力」、他国領域へのミサイル打撃力の保有については、専守防衛を逸脱する可能性があり、防衛政策の大きな転換と言えるものですが、政府内での一方的な検討で決められたものであり、国会での徹底した議論からはじめるべきです。

 今般の防衛力の抜本的強化の方針において、政府は本当に有事を想定しているのか、疑問視せざるを得ません。その最たるものが今回の防衛力整備計画において「国民保護」についての措置が、43兆円のうちたったの2兆円、つまり5%に過ぎないという点です。

 最近のJアラートに関わる対応についても、残念ながら現体制では十分でないことが明らかになりつつあります。避難施設についても、各自治体による避難場所の指定は進んでいるものの、本当に安全に身を守ることにできるシェルター整備については、令和4年度の第2次補正で、ようやく調査研究が始まったばかりです。しかも予算額はたったの7000万円。こうした事実は、政府が本当の「有事」というものを想定していないとしか言えないものです。

 国民の被害・犠牲を徹底的に回避するための措置が十分でないまま、ミサイル能力などを強化するのは、防衛費増額が目的化していると言わざるを得ません。

 そもそも我が国が反撃能力を保有・強化していくことは、「矛と盾」を前提としていた日米同盟を質的に転換するものです。日米安保体制の下で、なぜ反撃能力を保有するのか明確な説明もありません。

 むしろ「専守防衛」の観点から、原発などの重要施設の防御、国民保護などにより多くの予算を使い、従来の日米同盟の役割分担を堅持し、平和外交を徹底すること。政府は、「外交には裏付けとなる防衛力が必要」としていますが、それは裏を返せば、強いものの意見が通る、強いものの意見しか聞かない、と言っているのであり、岸田総理の言う「法の支配」を否定し、力の論理に与するものではありませんか。

 日本がこれまで行ってきた平和外交の努力を誠実に積み重ねていくべきです。

 わが国が直面する課題は多岐にわたります。それぞれに的確に対応し、国力としての総合的な防衛力を強化していくため、本法案はいったん廃案とし、防衛費のみを聖域化することなく、現に直面する有事である少子化対策と一体で検討する。その重要性を強く申し上げて、反対討論とします。

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