参院予算委員会で3日、2021年度本予算の実質的な審議がスタート。立憲民主党のトップバッターとして筆頭理事の森ゆうこ議員が質問に立ち、(1)原発事故の教訓とエネルギー政策(2)総務省接待問題(3)新型コロナウイルス感染症対策(4)外交安全保障――等について、菅総理ら政府の見解をただしました。

 森議員は冒頭、3月11日に東日本大震災・原発事故から10年を迎えるにあたり、あらためて犠牲となられた方々に哀悼の意を示すとともに、被災された皆さまに対して「これからも寄り添い、震災、特に過酷な原発事故の教訓を忘れずに政治が対応していかなければいけない」と表明。原発事故の教訓について菅総理に答弁を求めましたが要領を得ず、森議員自ら「産業振興部門と規制部門を同じ機関が行っていた反省から組織を見直し、きちんとした独立した規制機関を設けたことではないか」と述べ、原子力規制委員会の更田委員長にあらためてこの点を尋ねました。

 更田委員長は、「教訓はいくつもあるが、最も重要なのは、規制当局の独立であって、規制当局が産業の維持や拡大までも心配してしまうことは最も恐れなければいけないこと。独立性を確保できたのは教訓による大きな改善だと考えている」と答えました。

柏崎刈羽原発をめぐる問題の経緯.jpg

 森議員は、独立した規制監視のもとで安全が保たれるよう努力されるべきであるにもかかわらず、これを疑わざるを得ないような事故が起きているとして、柏崎刈羽原発をめぐり、社員のID不正使用による不正入室と、「安全対策工事完了」と公表(2021年1月13日)しながら未完了の事案が相次いで判明していることに言及。2020年9月20日に東電社員が他人のIDカードで不正に中央制御室に入り、翌21日にこの不正入室が発覚し、東電は規制庁に報告したものの、規制委員会は今年1月19日まで報告を受けておらず、この事実を知らないまま10月23日に東電の「適格性」を認め、保安規定の基本姿勢を了承、10月30日に保安規定を認可したことを問題視しました。

 森議員は、不正入室された中央制御室は「原子炉の運転を行う、悪意ある第三者による不正侵入については最も堅く守るべき施設の1つ」(更田委員長)であり、「意図的に報告をせず保安審査を通過させようとしたのではないか」と追及。原子力規制庁の山田総括審議官は、「担当部門から報告を受けた時点の当初の評価では、ただちに核物質防護上の重要な事案として報告すべき対象としてとらえていなかった。反省している」などと答えましたが、森議員は「到底納得できない。原発事故の最大の教訓、独立した規制庁、規制委員会のルール、きちんと監視する、厳しく規制するというルールが生かされていないのではないか」と規制庁の対応を批判。菅総理に見解をただしましたが、菅総理は「不適切な事案が発生したことは遺憾」と述べるにとどまりました。

 森議員は、安全工事が終わったと言いながらミスが明らかになっていることにも触れ、「もともと新潟県民の7割が再稼働に反対のなか、不信感はぬぐえない状況だ」と指摘。東電の賠償、除染、廃炉費用の総額は2020年12月末時点で約11.2兆円、中越沖地震以後の安全対策工事費としてもこれまで8600億円を支出、耐震強化工事なども含めて約1兆1690億円を見込んでいるなか、東京電力は経営方針を大転換して再生可能エネルギーなど新しいエネルギー社会をけん引すべきではないかと提起しました。

 また、原発事故後、諸外国では再生可能エネルギーの導入拡大が飛躍的に伸びていることにも触れ、「カーボンニュートラルはいいが、原発を使うためのカーボンニュートラルではなく、もっと新しいエネルギー社会、それを本物の成長戦略として進めていくべきではないか」と菅総理に迫りました。これに対し菅総理は、「原発ゼロで最適な政策を実現するのは極めて厳しいと考える」と従来通りの認識を明示。森議員は、「原発の安全性は崩れ、廃炉費用、補償費用もすでに10兆円以上かかっているなかで、そこから抜け出しませんかと言っているのに、それでもまだ原発がいると言う。固定観念を変えていただきたい」と強く求めました。

 総務省接待問題をめぐっては、「放送事業に対する認可というのは、もし認可を受けられなければ、例えば(接待をした)東北新社も、その子会社も放送事業自体をできない。生殺与奪の権を握っている。補助金を交付してもらうための違法な接待もあってはならないことだが、今回の問題が深刻なのは、更新されなければ経営、事業そのものが立ち行かなくなる、それほど重い権限を持っている」と述べ、許認可権限の重要性、重大性を強調。総務省から提出された、東北新社およびその子会社に対する許認可の決裁文書に判が押されている、吉田眞人総務省総務審議官、奈良俊哉内閣官房内閣審議官に対し、文書にも名前のある、東北新社メディアサービスの人物が利害関係者だという認識はなかったのかとあらためて確認しました。

 吉田、奈良両審議官は、共に「会食の時点で利害関係者だという認識はなかった」と答弁。森議員は「放送事業の認可はそんなに軽いものなのか。決裁をしている人たちが、(決裁文書に名前のあるにもかかわらず)相手が利害関係者だとは気づかなかったというのは、まったく意味が分からない」と呆れ果てました。

 その上で森議員は、菅総理の著書のなかにある「人事権を行使して官僚のなかに緊張感が生まれた」という武勇伝を紹介し、「この緊張感とはなにか」と質問。菅総理は、総務大臣時代、自らが掲げるNHK改革に反対する官僚を更迭したことについて、その官僚が反対する旨の発言をした論説懇(論説委員との懇談)に参加していた委員からメモをもらい、判断したと説明し、「大臣になったのだから自分が掲げた政策を実現するのは当然のことじゃないでしょうか」などと強弁しました。

 森議員は、「妨害したことが明確ならいざ知らず、懇談会のなかでの、又聞きの発言をもとに更迭されたのでは、官僚は気に入られるとしか言わなくなる。まさに『忖度政治』だ」と批判。その結果、今回の新型コロナウイルス感染症対策でも、総理の周りはGoToキャンペーン事業の停止や、緊急事態宣言の発令などをめぐり、言うべきことを言えないのではないかと指摘し、「オール霞が関の英知を集めるべきなのに、みんな気に入られることしか言わない。だからいま迷走しているのではないか」と断じました。

 外交安全保障政策では特に、拉致問題とミャンマー情勢を取り上げ、拉致問題に関しては、総理と外務大臣、担当大臣の日程が抑えられないという理由で参院の拉致問題特別委員会が開かれないことを問題視。菅総理、茂木外務大臣、加藤官房長官はそれぞれ、拉致問題については最重要課題だと考えている、国会の運営に関しては国会でお決めになることであり要請があれば出席すると答えましたが、森議員は「『要請しているが、大臣が対応してくれないので委員会が開けない』と与党側から言われる。これでは北朝鮮に間違ったメッセージを与える」と指摘しました。

 ミャンマーの事態については、「ミャンマーについては民主党政権時に債務を免除し、ODAあるいは日系企業の進出、さまざまな形で支援を行い、民主化の道筋をつけてきた。その後も安倍政権でしっかりとした支援が行われ、独自のパイプを築いてきた」とこれまでの経緯に触れ、政府に対し、「欧米とは違う別な外交、働きかけができるのは日本だけだと期待されている。今こそ、この間築いてきたものを活かして、ミャンマーの民主化、弾圧をやめさせる、死者が出ないよう、しっかりとやっていただきたい」と求めました。

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