「日本のデジタル(DX)化には、個人情報保護をはじめとする個人の権利が十分に守られることが不可欠。憲法92条の『地方自治の本旨』(※)をはじめとする、公正性や多様性を保障するための理念や、民主的でオープンな議論を通じた透明なプロセスが必要」(松尾明弘議員)。衆院本会議で6日、「地方公共団体情報システム標準化法案」についての趣旨説明と質疑が行われ、松尾明弘議員が登壇しました。
※日本国憲法第92条「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める」

 同法案は、住民基本台帳、住民税、障害者福祉、子ども・子育て支援など、法律に基づき地方自治体が実施する「17の事務」に関わる「情報システムの標準化」に関する法案。原則としてすべての自治体に対し、25年度までに標準仕様の情報システムへの移行を求めることなどを主な内容としています。

 松尾議員は、日本の自治体が各地で独自のきめ細やかな住民サービスを行い、それを支えているのが各自治体の情報システムであると述べました。そして、それらのシステムの標準化を図ろうとする本法案が、行政サービスや地方自治のあり方に深く関わるものであると指摘しました。法案が目指している「地方公共団体の情報システムを共通化し、住民サービスの安定・向上と、地方公共団体の業務の円滑・効率化を図る」という目的自体は「賛成できる」としながらも、今回の地方公共団体システム標準化は「標準化と地方の多様性保持を両立させる」という、非常に「難易度が高いもの」であるとも指摘しました。

地方自治の尊重

 冒頭、松尾議員は地方自治の尊重に重きを置いた日本国憲法の制定過程や、その後、地方自治が形骸化する中で1999年の地方自治法改正に至った経緯に言及。「本法案を審議するにあたって最も大切な視点は、憲法第92条で定められている地方自治の本旨を尊重することにある。私たちは過去に学ばなければならず、同じ轍を踏んではならない」と訴えました。その上で「デジタル社会へと大きく舵を切っている現政府においても、憲法第92条に定められている地方自治の本旨は尊重され、損なうことはないのか」と武田良太総務大臣をただしました。

地方の行政ニーズや財政事情の考慮

 また人口が約170人の青ヶ島村と約376万人の横浜市を引き合いに、地方公共団体では行政ニーズ、予算、システム担当者のスキルなど「あらゆることが異なる」と指摘。情報システムを標準化する場面においても「特定のシステムを導入することを国が義務付けるべきではなく」、各地方公共団体がそれぞれの行政ニーズや財政事情に応じ「必要なときに必要十分なシステムを構築できる制度とするべきだ」と訴えました。その上で武田総務大臣に対し「国が地方公共団体に対して、地方の行政ニーズや財政事情を考慮することなく、標準化されたシステムの導入を強制することは想定されるのか」とただしました。

地方が独自システムを開発する余地

 松尾議員は、日本の各地方公共団体が「きめ細やかな行政サービスを提供し、住民の利便性を向上させるために日々創意工夫を凝らしている」と述べ、自治体独自で子ども手当の追加給付などを行っている事例などを取り上げました。これら独自のサービスを支えているのが各自治体の情報システムであり「標準化の目的を害さない限り、各地方公共団体が標準化システム以外のシステムを追加で開発することは最大限保障されるべき」と主張しました。その上で「地方公共団体が、標準化システム以外のシステムを開発し、住民に対する行政サービスの向上や権利の保持に努めることは、地方自治の本旨、地方活性化の観点から最大限認められるべきではないか。それとも政府としては効率性のために独自システムの開発はなるべく抑制的とし、地方公共団体の独自性、独創性、多様性を制約することも厭わないという考えなのか」と、総務大臣をただしました。

 今後、想定される地方公共団体独自の施策には、例えば「個人情報保護のための施策がある」とも指摘。今回のデジタル改革関連法案によって個人情報保護が後退し、条例で特に保護をする必要があると考える地方公共団体が出てくることは容易に想定され、その場合には「標準化システムに加え、個人情報が保護されるための更なる追加開発がなされることになるだろう」と述べました。

地方の「現場の声」に耳を傾ける

 「5年以内」という年限に縛られて拙速に業務プロセス標準を策定し、それが現場の実情と乖離していれば「現場の業務は大混乱に陥ってしまう」と松尾議員は主張。標準化システムの仕様を検討するに際しては、国や地方公共団体の首長だけでなく「実際に現場でシステム標準化対象事務に従事している職員の意見を最大限反映させるべきであり、首長の意向を忖度することなくフラットな意見を集約する制度が必要だ」と述べ、総務大臣の見解をただしました。

「オープンソース化」を原則にする

 松尾議員は今後、日本のデジタル化を進めていくためには「国や地方公共団体が委託して作成するシステムについては、オープンソース化を原則とするべき」と訴えました。そしてそのメリットとして、(1)「費用対効果」を十分に有しているか、誰でも検証することができること(2)情報システムがブラックボックス化し、開発企業を変更することができなくなる、いわゆる「ベンダー・ロックイン」に陥ることを防ぐことができること(3)システム開発費を縮減したり、日本のIT業界のすそ野を広げられること(4)実際に業務で利用している地方公共団体のシステム担当者や、外部のエンジニアがチェックし、提案することを可能にすることで、より多様で効率的なシステムを開発できること(5)日本だけでなく世界中から知恵を集約できるようになること――などを挙げました。

 松尾議員は「行政システムのオープンソース化は、今後の日本のデジタル化を進めるにあたって非常に重要な方針であり、システム標準化を検討するこのタイミングで行うべき」と述べた上で、デジタル改革担当大臣の見解をただしました。

 最後に松尾議員は「今後、日本がデジタル化を確実に進めるにあたっては、公正性、透明性、多様性といった観点が非常に重要となる。また個人情報保護をはじめとする個人の権利が十分に守られることを担保することが、国民の理解を得られ、デジタル化が推進されるためには不可欠だ」と述べた上で、「地方自治の本旨をはじめとする、公正性や多様性を保障するための理念に十分留意し、民主的でオープンな議論を通じた透明なプロセスを通じたデジタル化を進めていくこと」を申し入れて、質問を結びました。

20210406本会議原稿案(松尾明弘議員).pdf