衆院本会議で8日、岸田総理の所信表明演説に対する代表質問が行われれ、泉健太代表に続いて西村智奈美幹事長が登壇。代表選挙でも訴えた「理不尽を許さない」「多様性を力に」との思いを込め、(1)新型コロナウイルス対策(2)医療政策(3)経済政策(4)子ども・子育て(5)入管の人権侵害の問題(6)社会の多様性(7)外交・安全保障――等について取り上げ、岸田総理の見解をただしました。

【衆院本会議】西村智奈美幹事長 代表質問原稿(2021年12月8日).pdf

 西村幹事長は冒頭、岸田総理が掲げる「新しい資本主義」について、「私たちが主張してきた分配重視の政策へと舵を切るのではないか期待をした」と述べる一方で、具体策が全く見えないことに加え、格差と差別を生んできた自己責任、競争至上主義、いわゆる新自由主義の構造そのものにメスを入れようとしていないと指摘しました。
 「新自由主義と明確に決別するのか」と尋ねましたが、岸田総理は「さらに力強く成長するため、成長も分配も実現する新しい資本主義を実現していきたい」と述べるにとどまりました。

■新型コロナウイルス感染症対策

 医療体制の確保について、「コロナに感染した多くの方が、入院できず、十分な医療を受けられず、『理不尽』の極みのようなことがこの日本で起こった」として、コロナ禍で与党の要職を担っていた立場としての責任を問いましたが、岸田総理からは明確な答弁はありませんでした。

■医療政策

 コロナ禍で役割の重要性が再認識された公立・公的病院については、統廃合の抜本的な見直しを提起。保健所と地方衛生研究所については、保健所は地域で公衆衛生の最前線の役割を担う組織であり、地方衛生研究所についても体制を強化すべきとの考えを述べました。

 岸田総理は「病床の大削減や統廃合ありきではなく、地域の実情を十分に踏まえつつ、地方自治体等と連携して検討を進めていく」「保健所と地域における科学的技術的中核となる地方衛生研究所の体制強化に努めていく」と答えました。

■経済政策

 西村幹事長は、岸田総理が所信のなかで格差と貧困の拡大を認めたことは評価した上で、立憲民主党は「解決に向けてまず、働く皆さんの給料を上げることがその第一歩」「引き上げの際には中小零細企業を中心に公的助成を行いながら、時給1500円を将来的な目標に、最低賃金を段階的に引き上げるべき」と表明しました。

 介護、保育、幼児教育の引き上げ額は不十分であり、全産業の平均的な賃金水準には及ばないと指摘。看護職についても、他の職種と比べ限定条件が付されていることから、一律引き上げを目指すべきだと主張しました。岸田総理はさらなる引き上げについて、「安定財源の確保と合わせた道筋を含めて、公的価格評価検討委員会で議論をしている。年末までに取りまとめる中間整理を踏まえて、取り組みを進めていきたい」と答えました。

 貧困対策については、国連が「持続可能な開発目標SDGs」で掲げている目標を日本政府も共有しているのかを確認。岸田総理は、SDGsの目標は日本政府も共有していると述べる一方、相対的貧困率については、「高齢化が進めば相対的に所得の低い高齢者層が増え、高まることになり、わが国の数値目標とはなじまない」と、これを否定しました。

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■女性の就労など

 今や労働者の約4割を非正規労働が占め、その非正規雇用における女性の割合は約7割であることから、「非正規雇用の賃金格差、不安定雇用の放置は、事実上の男女差別を放置することだ」と問題視。さらに総理が所信で触れた「女性の就労の制約となっている制度の見直し」について、女性が働けば働くほど不利になる配偶者控除制度や基礎年金第三号被保険者制度などを指すのかと尋ね、岸田総理の決意を問いましたが、明確な答弁はありませんでした。

■子ども・子育て、教育

 先進国の中でも最低水準の子ども・子育て関連予算や、教育予算(対GDP比)の拡充、家庭の経済状況などにより進学できない理不尽をなくすため、国公立大学の授業料を大幅に引き下げ、ひとり暮らし学生への家賃補助制度を創設すべきだと主張。日本の競争力低下を招いている大学での科学技術研究環境についても、国立大学運営費交付金の大幅増額などを通じて日本の科学技術研究分野の地盤沈下を食い止めなければいけないと訴えました。

■入管スリランカ女性ウィシュマさん事件

 内部調査では真相究明は不可能だとして、「総理自らが主導し、法務省とは無関係な第3者による真相究明をおこなうべき」だと求めるとともに、入管施設では過去にも人権侵害事件が続発しているとして、当事者である法務省や入管庁任せにせず、総理主導で、現状把握、改革に取り組むべきだと求めました。岸田総理からは、こうした人権侵害事案についても自ら主導するとの発言はありませんでした。

■社会の多様性

 「選択的夫婦別姓制度の導入」について、何をいつまでに議論するのかと迫りましたが、岸田総理は「国民のあいだにさまざまな意見があることから、しっかり議論をし、より幅広い国民の理解を得る必要がある」と答弁。「同性婚制度の導入」には「わが国の家族の在り方の根幹に関わる問題であり、極めて慎重な検討を要する」と極めて消極的な姿勢でした。

■外交・安全保障

 被爆地出身の総理として「核兵器のない世界」を目指すと表明した岸田総理に対し、唯一の戦争被爆国として、核兵器禁止条約にオブザーバー参加すべきだと主張。これに対し岸田総理は、同条約に核保有国が1カ国も参加をしていないことを理由に、こうした国を関与させるよう努力をしていくとして、オブザーバーとしての参加には改めて否定的な考えを示しました。

 沖縄県辺野古新基地建設を巡っては、沖縄の民意に反するのみならず、海底で軟弱地盤が見つかり、工事費、工期も大幅に膨張することが明らかだと指摘。大規模な新基地建設によらずとも、抑止力を維持することが十分可能ではないかとの見方を示し、現実的検討、米国との協議を開始すべきだと述べました。

■憲法改正

 西村幹事長は最後に、「立憲民主党は、憲法議論を否定しませんが、法律で十分可能なことを憲法で行おうとするなど「改正のための改正」には与しません。そもそも、憲法の議論をしたいのなら、まず憲法をしっかり守ってからにしてください」と指摘。これまでの自民党政権は野党が憲法53条に基づき求めた臨時国会を無視してきたとして、岸田政権はこれに従う考えがあるのか、明確な答弁を求め質問を締めくくりました。

 岸田総理は「憲法改正に取り組むことは私の本意」とした上で、憲法53条の解釈については「これまで法制局長官がたびたび答弁してきたとおりであると考えている」と、丁寧とは言い難い答弁でした。

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