政治改革から30年、自民党派閥の政治資金パーティーをめぐる裏金事件を受け、今あらためて本気の政治改革が求められています。カネがかかる政治を終わらせるためには何が必要か。お茶の水女子大学教授の申琪榮(しん・きよん)さんと党政治改革実行本部事務局長の落合貴之衆院議員が対談しました。

落合 政治不信は深刻です。立憲民主党は「政治とカネの問題に対する考え方」をまとめました。政治家に甘い数々のルールは、見直さなくてはいけません。

 政治資金に関し、日本は資料が少ないことに加えてアクセスがしにくい。標準化、一元化されていないため、例えば政党別にどのような違いがあるのか。海外の研究などでは明らかになっている、「女性議員は小口寄付が多く、男性議員は大手企業などからの大口の寄付をもらっている」といった議論も、研究ができる環境にありません。政治資金の公開性・透明性の向上が必要です。

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男性向けのビジネスモデルを変える

落合 金権政治の原因として、申先生は、自民党は派閥中心の政治が強力に機能していること、その根幹には「世襲政治」「縁故主義」があると指摘しています。男性議員の方が大口の寄付が多いのは、そういう人につながりやすいということですね。

 まさにそれです。「縁故主義」はいろいろなところで働いていますが、私はとりわけ政治の世界で見られる「縁故主義」は「家長の連合体」と表現しました。各イエ(※1)の代表者たちが集まって後援会などを形成し、それが代々にわたって引き継がれています。年長の男性らによる縁故ネットワークから外れている女性たちは、特に地方では、「政治に出ることは考えられない」と言います。相手候補が地元の名門校、有力な家柄の出身なのはもちろん、その友人、知人や関係者、地元有力企業らが揃って応援する。いわゆる地盤(選挙区)・看板(イエ)・カバン(資金)の政治資本を受け継ぐ世襲議員も多く、集票能力に圧倒的な差がある女性候補は対抗馬に成り得ないというのです。

落合 私も世襲の候補者と戦っていますが、男性でも高い壁がある。女性候補を増やしていくためには、選挙のやり方も変えていかなければいけません。お金の問題と、男性向けにでき上がっているビジネスモデルを変えていく必要があります。

※1 ここでは男性家長を中心として血縁や婚姻によって世代を越えて形成される親族集団という意味。

多様な人が当選するモデルを

落合 私の選挙区の東京・世田谷は、人口移動が多く、比較的「縁故主義」が薄い地域です。そういう意味で、東京23区の都市部から女性議員を増やしていかなければと活動しています。世田谷区議会議員50人のうち18人が女性で(約36%)、立憲民主党は7人中4人が女性です。今の日本人の働き方や、家庭環境を考えると、女性は地方自治体の選挙の方が出やすいと思います。
 有権者数は男女ほぼ同数なのに、女性の政治家が少ないのはバランスがよくない。女性視点からの課題もありますから、女性議員は議会の2分の1が理想で、最低でも3分の1以上を目指して活動しています。

 おっしゃるように、地方議会の方が国政より可能性があると思います。もちろん家庭の事情もありますが、挑戦しやすい選挙制度であることが大きい。選挙では、定数が4人以上になると女性の当選者の比率が高くなることが統計的に明らかです。小選挙区が一番低く、2人、3人、4人と定数が増えると当選率が上がっていく。小選挙区で相手を倒さなければという気持ちで必死に戦うのと、「私も当選できる」という気持ちで戦うのとでは全然違うのではないでしょうか。
 政党としては選挙に勝つこと、選挙に勝って政権を取ることが最終的な目的であって、そのためには小選挙区で勝たなければいけないというハードな面は当然あります。複数が当選する地方自治体の選挙であれば、政治家のモデルが多様化されるのですが、小選挙区だとその多様なモデルが生まれません。

落合 政治の場に女性が増えないと社会全体の女性の社会進出も進みません。政治家や官僚をはじめ、役職につく女性を増やしていくことは立憲民主党の大きな役割の1つです。

政治の空気を変えていく

 (立憲民主党の)改革案の内容はそのとおりですが、これは最低限実現しなければいけないことです。政治資金にかかわるルールをどのように設計するかによって政治の空気を変えていくことができます。そのために規制一辺倒の政策よりも、広い視野を持って政治改革に取り組んでほしいです。
 何より、お金がかかりすぎる政治と選挙を抜本的に変える。これまでのやり方を所与のものとして考えると、結局何も変わりません。
 女性候補者と接していると、政治はお金まみれで腐敗していると思い込んで、クリーンな政治をやるために、極力お金を使わない政治の方法を構想する。もちろんボランティアなどをたくさん集められればいいのですが、なかなかうまくいかない場合は、選挙で落選してしまったり、疲弊していく。これでは非常に不公平です。「皆さん、私を支援してください。支援の方法としてはボランティア活動もいいですし、個人寄付の方法もあります」「献金も1つの政治参画の方法」と堂々と言える政治文化に変えていくことは女性にとってもメリットになります。

落合 僕は10数年それをやってきて、ようやく地元ではそういう文化が芽生えてきていますが、これをもっと広めていきたいです。

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個人が寄付する文化を

落合 企業・団体献金への過度な依存が政治を歪め、献金額の多い業界団体に予算がつき、税が優遇されています。予算配分と税優遇、このお金の取り合いこそが今の政治になっていて、献金が少ない分野に予算措置されにくい傾向があります。

 私は身をもってそれを感じています。例えば私が勤めている国立大学は毎年運営交付金が減らされています。

落合 子育て政策も同様です。経済的な余裕のない若い有権者は政治力が弱い。結果として30年、40年前から「少子化」だと言われていながら、ほとんど手が打たれませんでした。

 公的な役割を担う予算がどんどん削られて、一部の民間に政策の歪みが出てくることは、市民、有権者みんなにとって不利益です。そういう意味でも企業・団体献金は禁止するべきです。そもそもその代案として、政党交付金をもらうようになったわけですから。
 しかし他国と比べて日本の政党交付金は多すぎるので、その配分の仕方や使途も再考すべきところがあると、政治学的な立場からは言えます。
 もう1つ、政治家が言う「お金がかかる」とはいったい何にお金がかかるのか。政治家自身がそれを洗い出し、例えば人件費や事務所費など誰にでも共通する必要経費があるならば、それについては一定額を公費でサポートする。こうした案も検討できるかもしれません。
 企業・団体献金は完全に禁止し、個人が寄付して政治家を育てる・応援する文化を、キャンペーンとして広げるのはいかがでしょうか。

落合 今はクラウドファンディングでも目標額を定めて募っていますからね。

 まさにそういう発想です。

落合 30年前の政治改革で、企業・団体献金の廃止を前提に政党助成金制度が創設されましたが、そこから何も進まずに結果として抜け道が活用されてきた。政治資金の規正や、透明性を高めることなど、あらためて本気の政治改革が必要です。今国会では必ず法改正を実現します。

 世界にはさまざまな事例が溢れています。期待しています。

「あなたの生活はこう変わる」ビジョンの提示

 今回の政治とカネの問題は、自民党のガバナンス能力があまりにも欠如していることの一環として出てきたと思っています。利益の追求に没頭し、政策や統治全体の目標、やるべきことは何かを見失っているように見えます。今の政治をこのまま放置することは、われわれ市民にとってとても不幸です。いかに改革して希望を持てる政治を作れるか、立憲民主党の役割にも期待したいです。
 例えば、「この政党に投票すれば次はこういう社会が期待できる」というビジョンを私たちに見せてほしい。積極的に政治に参加したいという気持ちにさせてくれる政党になってほしい。

落合 たしかに、海外と比べて日本人はプレゼンテーションがうまくありません。例えば今回の問題も、立憲民主党はすでに企業・団体献金禁止法案や、デジタル化して収支報告書をネットで公開する法案等、政治改革(政治とカネ)実現に向けた法案を提出しています。メニューは揃っているのですが、説明がうまくできていません。

 もちろん個別の政策も重要ですが、「この政策が変わることで、あなたの生活はこう変わります。これが私たちの目指すところです。任せてください」という具体的でわかりやすいメッセージですよね。政治家でなければできない仕事は、「政策が変わるとこの社会はこう変わります」と自信を持って提示できることです。それが責任ある政治リーダーシップの姿ではないでしょうか。

落合 この法律の何条を変えるという話ではなく、「われわれが政権取ったらあなたの生活はこう変わりますよ」。それが想像できるビジョンですね。
 今日はどうもありがとうございました。