「政治改革」が最大の焦点となった今年の通常国会。しかしながら、自民党は裏金問題の実態解明を怠り、成立した改正政治資金規正法は抜け穴だらけで国民の政治への信頼は失墜したままです。今の政治状況をどう見るか、必要な改革とは何か。平成の政治改革を推し進めた小沢一郎衆院議員に話を聞きました。

――平成の政治改革をどう評価されていますか。

議会制民主主義の定着には政権交代

 議会制民主主義の基本は、政権交代があって初めて成り立つ。政権交代をするためには、政治家はもちろん、国民の意識がもっと民主主義を理解しないとなかなか実現できない。議会制民主主義の歴史が浅い日本の場合は、政治家がリーダーシップを発揮しながら民主主義の定着を図っていくことが大事だ。当時はそのためにはどうしたらいいかという、1点集約的に議論されたのが選挙制度の改革、小選挙区制の導入だった。

 今なんやかんや言う人はいるが、それは最初に申し上げたことを全く理解していない人たちだ。大選挙区、俗に言う中選挙区制度のままだったら、ずっと自民党政権だ。野党はとても過半数の候補者を立てるだけの力がないから政権交代はあり得ず、現に55年体制は政権交代がなかった。それでは民主主義ではない。

 政権交代を実現するにはどうしたらいいかということで小選挙区制度を考えた。僕はこの世界に入った時から、「一時は自民党が勝つかもしれないが、いずれ負ける。小選挙区制度はそういう機能を持っている。だから、小選挙区制度は政権交代のある本来の民主主義の定着のためにはどうしても必要だ」という議論をずっと言い続けてきた。紆余曲折はあったが、それが実現したことで2度の政権交代が起きた。次は3度目の政権交代をしないといけない。

――当時の、平成の政治改革では、自民党のなかでも中選挙区制度のままがいいと言う議員が多いなか、少数派にもかかわらずやり切れた要因は何だったのでしょうか。

小沢一郎
小選挙区導入に本気を示す

 体制派が反対だったからこそ、政治改革の民間臨調ができて小選挙区制の議論が学者やマスコミなどのなかでテーマになった。そして僕は自民党の幹事長の時に、「小選挙区をやっぱりやるべきだ」と言った。羽田孜(元総理)が党の選挙制度調査会長になっていた。その時に政治改革の旗振り役のように言われていた後藤田正晴さんと伊藤正義さんが幹事長室にやってきて、「今回はいわゆるお経みたいな、いずれ選挙制度改革をやるということでいいのではないか」と言い出したんだ。僕は「何を言うかと、自分は本気だ、必ずやる」と言ったら、びっくりして帰っていった。

 政治改革なんだかんだと言ったって、だいたい日本人というのは建前ばかり。本音と建前が違いすぎる。当時、政治改革のリーダーだ、政治改革の鬼だと言われている人でさえ、その程度の認識だったんだ。だからそれではなかなか進まないと思い、それが自民党離党の基本的な出発点、原点になった。

――その後、小選挙区制度が導入され、政党助成法も成立して2009年に民主党政権ができました。しかしながら3年4カ月で自民党政権に戻り、2012年以降は自民党1強と言われる政治状況が続いています。この状況をどう見ていますか。

野党には政権を担う意識が必要

 野党が候補者を統一しないといけない。そして、今の状況で野党が協力すれば選挙は圧勝するが、野党にそういう感覚が全くないということが問題。最近の補選等での野党の勝利はあくまで自民党の敵失つまり、敵の失策によって国民はあきれ果てているということであり、野党による政権交代への期待も全然盛り上がっていない。

 だから、ここで野党が褌を締め直して力を合わせることが不可欠。その根底には政権を担うという意識と覚悟が必要だが、この政党はその意識も覚悟も薄く、「俺たちは野党のままでいい」という議員が多い。昔の社会党も万年野党でいいという発想だったが、それでも表向きは暴れていた。それに比べ今の野党は表向きもおとなし過ぎる。その結果、自民党は何をやってもいいとなり、自民党の政治腐敗と国民の政治不信が極限に達している。最近、国民も呆れ果て、「さすがに政権を変えなければいけないかな」と思い始めたところだが、それに対して野党に応えるだけのものがないからこそ、今日の混迷がある。

小沢一郎
政権を変えれば既得権益を壊せる

 言うなれば、今は野党にとっては最大のチャンスであり、次の総選挙で勝てなかったら、もう野党は雲散霧消するだろう。自民党は権力を持っているから、まだ野党よりはねばるだろうが、いずれは自民党という存在も消えるだろう。そうなると国民の民主主義そのものに対する不信感が強まる。日本人は特に情緒的だから極論に流されやすい。こんな制度はダメだという極論になる。昨今、欧米でも極右勢力がものすごく票を伸ばしている。日本は欧米よりもはるかに自我のない国民性だから極端に流れやすく、この点を非常に危惧している。だからこそ、民主主義を守り、国民の生活を守るためにも、次の選挙で何としても政権を代えなければならない。政権を代えたからといって野党が立派なことをすぐにできるわけではないけれど、政権を代えるだけで自民党を中心とした既得権益をぶち壊せる。政権交代で既得権の枠を取っ払い、新しい富の配分をすることで国民の生活そのものを大きく変えることができる。

――明治維新から今まで150年以上経ちました。この日本政治を振り返った時に到達点をどんなことと考えられているのか。またこれから100年を見据えてどういう政治が必要なのかお聞かせください。

「なあなあ」「まあまあ」ではまた無残な結果になる

 明治維新を経て、これからから議会制民主主義、政党政治が育つのではないかという時期がいわゆる大正デモクラシーの時代。その後、世界恐慌と、それに対応しきれない政治状況の中で軍事官僚と行政官僚が勝てもしない無謀な戦争を始めて悲惨な結果となり、明治維新以降の近代化は、ほぼ80年で終わってしまった。

 戦争に負け、焦土の中から新しい日本が生まれ、今日まで育ってきたわけだが、残念ながら、議会制民主主義はまだまだよちよち歩きの状況でしかない。だからさきほども言った通り、今度の選挙で政権を代えないと、明治維新から先の敗戦までは80年、そこから今日はちょうど80年となり、第二の敗戦を迎えることになる。

 もちろん日本人には、日本的な民主主義というものがある。「なあなあ」「まあまあ」の事なかれ主義、なれ合い主義だ。日本では、政府も政党も平時はいいが、肝心な時に誰も責任取らないようにできている。今も何とか会議だの、審議会などをたくさん作って、そこでの結論をいただいて、野党もどこかの結論をいただいてから「やります」と言う。自分らで決めたとは絶対に言わない。みんな、他人の決めたことをやる。それで責任を取らない。これでは民主主義とは言えない。日本はこれまでも、今も「なあなあ」「まあまあ」だ。その結果が300万の日本人の命と引き換えの敗戦だ。こんなことを続けていたら、また同じような悲惨な結末になる。

野党協力ができれば世の中は変わる

 国際社会も非常に動乱含みだ。今はまだ、みんな食料があるから、のほほんとしているが、食べられなくなったらどうするのか。農業も産業も、日本はものを作る人たちがどんどんいなくなっている。かつてものづくり産業は一番だったのがどんどん後退し、国民の平均所得も、国民総生産も他国にどんどん抜かれている。一番の問題はやはり食いものを作る人がいなくなっていること。日本は食料を輸入に頼っていながら、その輸入したものが30%廃棄されている。世界には飢えて亡くなる人がいるのに、天はこんな日本を許すはずがない。にもかかわらず、国民も政治家ものほほんとして危機意識がない。広く世界を見据えた、天下を見据えた志がない極めて困った状況だ。少しでもいいから、そういう思いを持ち、野党協力ができれば世の中は変わる。 それができるかどうかが立憲民主党の役割だ。