8月23日、午前は衆院財務金融委員会で、同日午後は参院財政金融委員会で、閉会中審査が開かれ、植田和男日本銀行総裁、鈴木俊一財務大臣が出席し、桜井周、階猛両衆院議員、熊谷裕人参院議員が質疑に立ちました。

■桜井周議員

 桜井議員は冒頭、立憲民主党が昨年2月に提案した「新しい金融政策」を踏まえ、植田日銀総裁は就任以来「おおむねこの方向で進めていただいている」と述べました。その上で、アベノミクスに基づく「異次元の金融緩和」からの政策変更が今年3月から行われたことについて質問。円安株高バブルを生み出し、足元の大きな調整を引き起こしたことや、2022年から続く2%以上の物価上昇で国民が苦しんでいる現状を踏まえると、「日銀の金融政策の修正は遅い」と指摘しました。桜井議員は政策変更がこの時期になった理由として、安倍派への忖度を挙げ、派閥が2月に解散したことで、政策変更に踏み切ったのではないのかと植田総裁を追及しました。2%の「物価安定の目標」が持続的・安定的に実現可能の目途がついたことによる政策変更と答えた植田総裁に対し、桜井議員は「安倍派への忖度により金融緩和を止められず、国民が物価高で苦しんだのであれば、自民党の責任は極めて重い」と指摘しました。

 次に鈴木財務大臣に対し、政府が「デフレ脱却宣言」を行わないのは、円安による輸出企業の利益を優先しているのではないかと疑問視。「企業の利益は国民の生活を豊かにするためにある。今こそ国民の生活が第一」だと強調しました。そして、裏金問題でも話題になったように、パーティー券を企業に購入してもらう目的なのではないかと指摘しました。さらに、鈴木大臣が8月3日に政治資金パーティーを開催したことについて、桜井議員は「大臣規範ではパーティー開催の自粛が書かれているが、物価高で国民が苦しむ中、大臣はパーティー三昧で申し訳ないと思わないのか」と迫りました。鈴木大臣は「大臣規範には在任中に政治資金パーティーは自粛すべきといった記載はない。大規模パーティーを自粛するべきとある」と答えた上で、ルールを守って行うことについては何も問題ないと述べました。桜井議員は、「大臣規範のタイトルには『パーティー開催の自粛』となっている。大規模は厳に慎むと中身に記載されているが、では何をもって大規模とするのか。200人以上が参加したと報道されているが、普通に考えると大規模パーティーなのではないか」と指摘しました。

 最後に桜井議員は、現在の実質実効為替レートが1971年のニクソン・ショックよりも低いことに言及し、「日本経済の実力が50年前よりも低いといった受け止め」だと指摘しました。桜井議員は、その対応策が、神田前財務官が7月に取りまとめた「国際収支から見た日本経済の課題と処方箋」(神田レポート)に記載されているにもかかわらず、これまでに政府が対応策を実施しなかったことについて、内閣に問題があるとして「日本経済を立て直していくためには政権交代が必要」だと強調しました。

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■階猛議員

 階議員は冒頭、岸田総理について、自らの自民党総裁任期中に憲法を改正して、大災害などの緊急事態中は国会議員の任期を延長して国政の機能を保つと言っていたにもかかわらず、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」の発表中に総裁選への不出馬を表明するとは「夢にも思わなかった」と表明。ただし、その岸田総理の最大の功績をあえて挙げるとすれば、日銀の総裁を黒田総裁から植田総裁に変えたことだとして、植田総裁になり「日銀が自らの誤りを認めて、それをただすようになった」との認識を示しました。

 階議員は、その象徴は日銀が3カ月に1回公表する「展望レポート(経済・物価情勢の展望)」だと指摘。黒田総裁の時代には物価の見通しが「当たることは皆無」であったと述べ、「自分たちが掲げた『異次元の金融緩和』を続けることを正当化するような、ご都合主義で恣意的な『願望レポート』になっていた」と断じました。その上で、階議員は植田総裁に対し、「なぜ植田総裁に変わってから『展望レポート』の物価見通しは当たるようになったのか」と質問しました。

 これに対し植田総裁は、この2、3年間をふり返り、輸入物価を起点としたインフレの持続性について「判断を誤っていた」とし、また国内の賃金・物価の好循環についても「そう簡単には(輸入物価起点のインフレが)転嫁してこない」と見ていたとした上で、最近は「見通しを作る際に見方を修正してきた中で誤差が少し低くなっている」と答弁しました。

 関連して、階議員は、7月の「展望レポート」の時点では、輸入物価の上昇要因は円安であったと強調。植田総裁に対し、「円安は日銀の物価見通しに影響を与えるのか」と質問しました。これに対し植田総裁は「見通しの中心値に影響を与えることもある」と答弁しました。

 また階議員は、今後、金融政策を正常化していく過程で、市場に混乱を招かないようにするためには、他の中央銀行のように、金融緩和が終了する場合の名目金利(中立金利)を示した上で利上げを行うべきと提案。これに対し植田総裁は、現時点で自然利子率の推計は大きな幅を持ったものしか示せていないとしつつも、「自然利子率の推計が、少し自信を持って狭めることができるという状態になれば、私どもの考え方として、市場、メディア、国民に知らせていかなくてはいけない」と答弁しました(※)。

(※)「自然利子率」とは、経済に対して緩和的でも引き締め的でもない実質金利のことを指し、「中立金利」とはこの「自然利子率」に「予想物価上昇率」を足したもので、経済に対して緩和的でも引き締め的でもない(=中立的な)名目金利のことを指します。したがって、名目金利が「中立金利」に達することは、金融緩和の終了と考えることができます。

 そして階議員は、自らが中心となり前国会に提出した「日銀保有ETF活用法案」も踏まえながら、日銀が保有する巨額のETFについて、7月の金融政策決定会合では保有国債を減額する計画が決定されたが、「多額の含み益があり、宝の持ち腐れとなっているETFを減額する計画も速やかに検討して実行に移すべきではないか」と提案しました。これに対して植田総裁は「保有ETFについては、処分をすぐに行うことは考えずに、今後の取り扱いについてある程度時間をかけて検討していきたい」と答えるにとどまりました。

 関連して、鈴木財務大臣に対しては、日銀の国庫納付金について、ここ数年、当初予算よりも決算段階の実績の方が大幅に上回っており、今年度も大幅に上振れる見込みであることを指摘した上で、「保有ETFを政府が簿価で買い取って、分配金収入を政府が受け取れるようにすれば、予算時に財源として有効活用できるのではないか」と問いました。これに対し鈴木大臣は、「日銀に分配金収入が受けられなくなるという逸失利益を生じさせることになる」などと答弁しましたが、階議員は「含み益が37兆円もあるのに全然活用されていない方が逸失利益だ」と応じました。

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■熊谷裕人議員

 8月上旬に株式相場や円相場が乱高下したことについて「投機筋に狙われた」と分析し、政府・日銀の認識を問いました。

 鈴木財務大臣は「8月の株価と為替の乱高下は様々な要因が考えられる」と述べ、投機的な動きについては「一概に応えは難しい」とし「いずにせよ、投機的な動きも含め注視していく」と述べました。

 植田総裁は「高い緊張感をもって市場の動向を注視する」と発言しました。

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