第2章「次の内閣」・政務調査会 各分野の対応
財務金融・税制
定額減税など課題山積の税制改正に対応
立憲民主党は2023年、税制調査会を中心に、各部門会議等で、関係団体から2024年度の税制改正に関する要望をヒアリングし、「2024(令和6)年度税制改正についての提言」を取りまとめた。提言は、①物価高騰で厳しい状況にある家計・事業者等への支援、②物価を上回る賃金上昇の実現に向けた支援、③税制の所得再分配機能・財源調達機能の強化、④暮らしの安心を支え、幅広い消費を喚起するための税制、⑤働き方やライフスタイルに中立な税制、⑥カーボンニュートラルの実現に向けた税制、⑦多発化・深刻化する災害等に対応する税制、⑧真の地方分権改革実現に向けた地方税財源の安定的な確保等、⑨多国籍企業による租税回避の防止、⑩納税環境の整備の10項目からなっている。立憲民主党は、政府・与党の税制改正大綱の決定に先立ち、本提言を財務大臣に申し入れた。
その後、政府は2023年12月22日に「令和6年度税制改正の大綱」を閣議決定し、同大綱に基づき、213回通常国会に「所得税法等の一部を改正する法律案」を提出した。同法案には岸田首相肝煎りの定額減税が盛り込まれたが、制度が極めて複雑なために、企業や自治体の現場に多大な負担を強いることになるなど、明らかに合理性を欠いたものであることから、立憲民主党は給付で対応すべきであると繰り返し主張した。その他にも、効果が判然としないにもかかわらず漫然と拡充される賃上げ促進税制、賦課金などの国民負担を財源に10年間で2兆円規模の大企業減税を実施する戦略分野国内生産促進税制、防衛増税の実施時期の不透明な先送りなど、様々な課題が山積していた。こうした理由から立憲民主党は同法案に反対したが、3月28日、与党の賛成により可決・成立した。
税制上の論点に関する勉強会を開催
税制調査会は、税制上の様々な論点に関し、国立国会図書館の協力を得て、全7回にわたる勉強会を開催した。テーマは、主要諸国における①公益法人等の収益課税、②投資減税、③輸出免税制度による消費税還付・国境を越えた電子商取引に係る消費課税、④賃上げ税制、⑤教育費負担軽減に係る税制、⑥自動車課税、⑦相続税・贈与税と多岐にわたり、それぞれについて調査・研究を進めた。
税関や確定申告会場などの現場を視察
財務金融部門は、2023年12月に東京税関、2024年3月に新宿の確定申告会場をそれぞれ視察した。東京税関視察では、フェデラルエクスプレスジャパン、羽田税関支署の現場を回り、業務の状況等について説明を受けるとともに、東京税関長、税関労組東京地区本部執行委員長らと意見交換を行い、業務量の急増等の実態を聴取した。また、インボイス制度の開始や自民党裏金脱税問題の影響を知るために視察した新宿の確定申告会場では、実際に確定申告が行われている現場を見ながら状況の説明を受けるとともに、新宿税務署長らと意見交換を行った。
213回通常国会で政府提出の「関税定率法等の一部を改正する法律案」「所得税法等の一部を改正する法律案」が審議された際は、視察を踏まえた質疑、附帯決議の取りまとめを行った。
「異次元の金融緩和」の転換
立憲民主党は2023年2月に策定した「新しい金融政策」に基づき、三十数年ぶりの歴史的な円安、それを受けた物価高、実質賃金の低迷など、様々な弊害をもたらしてきた「異次元の金融緩和」の見直しを求め続けてきた。
こうした中で日本銀行は、2023年7月に長期国債の指し値オペ利回りを0.5%から1.0%に引き上げ、10月には長期金利の上限を1.0%目途として指し値オペによる厳格な金利操作を放棄するなど、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)の柔軟化を進めた。そしてついに、2024年3月の金融政策決定会合において、マイナス金利政策の解除、長短金利操作の撤廃、ETFの新規買入れ終了などを決定した。これらの動きはいずれも立憲民主党の主張に沿ったものであり、これによって、約11年間続いた「異次元の金融緩和」に歯止めが掛かった。
残された課題は、日銀が保有する巨額の国債(589.7兆円)とETF(簿価37.2兆円、時価74.5兆円)の処理方法である。国債については、日銀が6月の金融政策決定会合において長期国債の買入れを減額する方針を決定するなど、一定の取り組みが見られるが、ETFについては全く手付かずの状態が続いている。こうした状況を受けて、立憲民主党は、「子ども・子育て支援金制度」を廃止し、日銀保有ETFを政府に移管して得られる分配金収入(1.2兆円)を代替財源として活用するための修正案と議員立法「日銀保有ETF活用法案」を衆議院に提出したが、修正案は政府・与党の反対により否決され、議員立法は継続審議となった。(詳細 第3章 「子ども・子育て支援金制度」の廃止、日銀保有ETFの活用)
「株主資本主義」への先祖返りを批判
政府は213回通常国会に「金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律案」を提出した。同法案は、規制緩和等により投資運用業者の参入促進などを図るものだが、一般国民・家計の視点は置き去りにされていた。この法案の行き着く先は、投資運用業者あるいは投資家間の競争促進による「株主資本主義」への先祖返りに他ならず、「公益資本主義」の実現を求める立憲民主党の立場とも相容れなかった。こうした理由から立憲民主党は同法案に反対したが、5月15日、与党等の賛成により可決・成立した。
事業性融資推進法案の問題点を喝破
政府は「事業性融資の推進等に関する法律案」を213回通常国会に提出した。同法案は、無形資産を含む事業全体を担保とする「企業価値担保権」の創設を主たる内容とするものであった。しかし、新たな担保物権を創設する特別法でありながら、法制審議会の答申を経ていないという前代未聞の法案であり、また、その具体的内容は政省令等に委ねられている部分が多く、物権法定主義の趣旨に反しているなど、立法上看過し難い問題を抱えていた。政策的な内容についても、経営者保証に依存しない、事業性に着目した融資の推進という目的には賛同できるが、この「企業価値担保権」が実行された場合、事業そのものが売却され、雇用が切り売りされる懸念があることなどを踏まえれば、手段としての合理性には相当な疑問が残った。こうした理由から立憲民主党は同法案に反対したが、6月7日、与党等の賛成により可決・成立した。