第2章「次の内閣」・政務調査会 各分野の対応
環境・原子力
人の命か、経済か―水俣病・PFAS汚染
2024年5月、水俣病被害者との環境省懇談会の場で起きたマイク切りを受け、環境部門は熊本県水俣市と新潟県新潟市を訪ねた。被害者団体から、公式確認当時、加害側企業が水銀を除去する装置をつけたと嘘をつき、一部の被害者にこれ以上損害賠償を請求しないといった契約を迫ったこと、地域経済はその企業が礎となっていたために、声を上げることができない社会状況であったことなどを聴取した。
現地の人々の要望を元に環境部門は、213回通常国会で救済を一歩でも進めるために「水俣病問題の解決支援法案」を衆議院に提出した。また現行法でできることは最大限実施すべきとの考えから、政府への緊急要望を行った。(詳細 第3章 水俣病問題の解決支援法案)
また、現在進行形の公害であるPFASは、有機フッ素化合物の総称で、物質として安定性があり自然界で分解されにくく、永遠の化学物質と呼ばれている。このため、土壌や水から流出したPFASを取り除かない限り、汚染はなくなることがない。
環境部門では、東京・多摩地域を訪ね、PFASが高濃度に検出され、運用を停止している井戸のある浄水場を視察し、多摩地域の市民からヒアリングを行った。高濃度の汚染地域から汚染源にたどり着いて初めて汚染を食い止めることができるため、まずは国が主体的に健康調査や水質調査を行い、どこでどのようにPFASが検出されているか、確認する必要があるとの意見を伺った。
また、泡消火剤を取り扱ってきた従業員から健康不安の証言を受けて、政府に雇用主としての対応を求めた。第2の水俣病となることを避けるため、今後も継続してPFAS汚染問題に向き合い、汚染を食い止め、健康不安の解消を目指す。
能登半島地震が示す原子力災害時の避難の難しさ
2024年1月早々に発生した能登半島地震は、原子力災害が起きた場合の避難の難しさを明らかにした。地元の自治体やNGOは、道路の分断やモニタリングポストの故障などから避難の難しさ等を指摘している。原子力発電所等のトラブルは細かに状況を確認して公表していく必要性があり、万が一の事故の際の実効性ある避難計画の策定と地域インフラの整備は喫緊の課題である。
人と自然との共生に向けて
神宮外苑に関する課題では、環境アセスメントの研究者からヒアリングを行い、住民参加のプロセスの重要性や環境アセスメント法に事業を止めることができる機能が必要であるとの指摘を受けた。
また、人とクマとの遭遇が多く報告されたことから、クマ被害対策についてクマの生態に関する専門家から話を伺った。人とクマとの遭遇が多くなった原因は、クマが突如として狂暴化したからではなく、地方の過疎化などによって、人の領域とクマの領域が近くなったからであり、まずはクマが人の生活圏に出てこないようにする地域づくりの必要性が提案された。
その他、世界で象牙の市場が閉鎖される中、日本が活発に市場を開いていることで、違法象牙の温床となっている課題や、公害は二度と起こしてはいけないとの思いから、当時何が起きたかを伝えていくための公害関係資料の保管や資料館の課題など、その重要性と比べて国会で議論になることが少ない環境問題の課題について、環境部門では多くのNGOや有識者から積極的に政策要望を聴取した。
地球環境の危機への政府対応を厳しくただす
気候変動、生物多様性、資源循環は、どの課題においても変革が求められている。気候変動・地球温暖化の深刻化により、豪雨災害は激化し、2023年は産業革命以前から1.4度の年間平均気温上昇となった。豊かな生物多様性を育む森林は土地の利用転換等によって1分間に東京ドーム2つ分が失われ、第6次大量絶滅時代に突入したとの指摘がある。資源循環は、循環に注力するあまり、3Rの基本であるリデュースではなくリサイクルに傾倒し、大量の資源を消費しながら地域の負担を増加させている。そうした中、213回通常国会で政府は、この3つの課題に関連する法案を提出した。
1本目の生物多様性増進法案は、新しい生物多様性の世界目標である昆明・モントリオール生物多様性枠組が生まれてから初めての政府提出法案となった。環境部門は、NGOから、そもそも生物多様性地域戦略の策定を進めていくべきであることや、保護地域の保全の質の担保の重要性等の意見を聞き、委員会質疑で確認するとともに附帯決議に盛り込んだ。
2本目の再資源化高度化法案の審議に合わせ、2023年末に開催された「プラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際文書(条約)の策定に向けた第3回政府間交渉委員会(INC3)」の主要議題であったプラスチックの総量規制が合意できなかったことや、日本政府が国際交渉の中で後ろ向きであったことなどNGOから指摘を受けた。また資源循環法制の専門家からは、環境課題を取り巻く社会状況が大きく変わってきているにもかかわらず、環境基本法といった環境政策の根幹を変えようとしない政府の後ろ向きな姿勢について問題提起を受けた。参考人や関係団体からは、資源循環を目指すことは重要ではあるが、日々の廃棄物処理を担う自治体の負担が増している現状について意見があった。
3本目の温対法改正案の審議に合わせ、国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)の成果を政府よりヒアリングした。NGOから、温対法の課題として、地域共生型の再エネ導入促進の必要性、支援的措置の整備とともに規制的措置の必要性等についての指摘を受けた。
当初、政府は温対法改正案の審議を数時間で終わらせようとしていたが、立憲民主党が気候変動問題の重要性を訴え、参考人質疑を獲得した。参考人に現役の大学生を招致し、若い世代が考える気候変動対策の課題や気候変動に対する不安を委員会で共有した。また、特に気候変動問題が深刻さを増していること、効果的に対処するために現在の経済・社会のしがらみにとらわれない施策が必要であることから、法案名称を地球温暖化から気候変動とする変更と、無作為抽出された国民で議論するくじ引き民主主義について修正案を提出したが、与党は全く協議に応じず修正案は否決された。
立憲民主党は修正案提出等の提案を行いつつ、賛成した。3法案は可決・成立した。どの法案も根本解決にはなお程遠いため、各団体や有識者からの政策要望や指摘を踏まえ、今後も継続して政策提案を行っていく。