第3章焦点となった法案・課題への対応
外国人労働者が安心して働ける国へ抜本改正とは程遠い
入管法・技能実習適正化法改正案
外国人技能実習制度は、ハラスメントや低賃金・長時間労働といった人権侵害や労働関係法令違反が数多く指摘され、国内外から奴隷制度と批判されてきた。
改悪と言わざるを得ない政府案
政府は、外国人技能実習制度を廃止して新たな在留資格を創設する入管法・技能実習適正化法改正案を213回通常国会に提出した。政府案は、転籍制限、来日前の費用負担、家族帯同の長期制限がそのままであるほか、監理に民間団体が介在する仕組みが残るなど、人権侵害が引き起こされる要因が除去されていない。加えて、季節性のある分野での派遣形態を新たに導入するとしており、労働者の地位や収入がさらに不安定になる懸念がある。
そして、政府案では租税公課を滞納した場合に永住許可を取り消す条項が突如追加された。永住権の剥奪は、日本人に対する罰則と比べてあまりに重く差別的で、人権侵害のおそれがあるにもかかわらず、有識者会議での議論や当事者からのヒアリングなどを全く行っておらず、根拠が不十分で立法事実が欠けている。
また、在留カードとマイナンバーカードを一体化する入管法等改正案についても、プライバシー保護の観点や任意性の維持の点から疑念が残る。
政府案は、現行制度の温存どころか改悪と言わざるを得ないことから、立憲民主党は政府案への対案を準備した。
外国人労働者安心就労法案を提出
立憲民主党は、外国人労働者安心就労法案(以下、立憲案)を提出した。立憲案は、多文化共生社会の形成と外国人の人権尊重を柱として、現行の特定技能および技能実習の在留資格を廃止し、新たに一般労働の在留資格を創設するものである。さらに立憲民主党は、一般労働の在留期間満了後も引き続き就労可能な在留資格の創設を検討している。
また、雇用に関する手続については、過去の実例から悪質な民間団体を排除しきれないとの認識の下、適正な受入れ、雇用管理の実現を図るために、求職・雇用はハローワークなどの公的機関を通じて行い、労働者支援も公的機関が行うこととした。
修正協議で一定の成果も、根本解決には至らず
法案審議と並行して、立憲案に基づいた9つの修正項目を示して修正協議を呼び掛けた結果、自民党、公明党、日本維新の会、立憲民主党の4会派で、外国人の永住資格の取り消しに当たっては支払い状況や生活状況等に十分配慮することなどを附則に盛り込むことで合意した。また、原案のまま運用されることによって生じる被害を少しでも軽減し、運用その他で少しでも状況の改善に繋がるよう衆議院で14項目、参議院で29項目におよぶ附帯決議を付した。
しかし、附則や附帯決議も含めて在留外国人の権利保護が前進した部分はあるものの、重大な人権侵害である永住権剥奪条項が削除されていないなど、根本解決に至らない点が残った。よって、修正案に賛成、修正部分を除く原案および修正後の政府案に反対したが、与党などの賛成多数で政府案は可決・成立し、立憲案は否決された。
立憲民主党は、真の意味での多文化共生社会の実現に向けて、今後も全力で取り組んでいく。