第2章「次の内閣」・政務調査会 各分野の対応
経済産業・エネルギー
価格転嫁対策の実効性確保を政府に要請
中小企業では人件費やコスト増加による価格交渉を持ち出すと取引関係に悪影響を及ぼす懸念を背景に、労務費転嫁を自社で吸収する等の商習慣があり、価格転嫁が困難な要因の一つとなっている。そうした中で内閣官房と公正取引委員会は2023年11月、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(労務費転嫁ガイドライン)を公表した。
政府が労務費転嫁ガイドラインを策定するに当たり、経済産業部門では政府や有識者からヒアリングを行うとともに、中小企業の現場の状況等について関係団体との意見交換を行った。それを踏まえ2024年1月、「価格転嫁対策の円滑な実施と実効性確保に関する申し入れ」を政府に行った。内容は、①労務費転嫁ガイドラインの周知徹底、②労務費転嫁ガイドラインの運用状況の確認および中小企業等への綿密なフォローアップと改善点の洗い出し、③労務費転嫁が困難な業態・業界の状況把握および施行予定のフリーランス・事業者間取引適正化等法との連携、④アンケートやヒアリングによる価格転嫁の状況把握と適時適切な公表、⑤公正取引委員会や下請Gメン等の人員強化および地方での価格転嫁対策の強化、である。
脱炭素化の難しい分野でのGX推進へ
政府は213回通常国会に「水素社会推進法案」および「CCS事業法案」を提出した。両法案は2050年カーボンニュートラル(CN)の実現に向けて、脱炭素化が難しい分野におけるグリーン・トランスフォーメーション(GX)を推進するものである。主な項目として、国が前面に立ち低炭素水素等の供給・利用を早期に促進するための基本方針の策定や計画認定制度の創設、排出された二酸化炭素を回収し、地下の地層に貯留するCCS事業について、公共の安全の維持と海洋環境保全を図りつつCCS事業を進めるために必要な環境整備を行うこと等を定めている。
立憲民主党は両法案について経済産業部門、環境部門、環境エネルギープロジェクトチームとの合同会議で議論を行った。関係団体や有識者からのヒアリングでは、鉄鋼や電力等CO2排出量の多い産業がCNに移行するに当たり低炭素水素等やCCSの社会実装は不可欠で、制度の整備を求める意見がある一方で、水素・CCSへの過剰な依存は政府のエネルギー政策の根本的な欠陥であり、自然エネルギー軽視と表裏一体であることを懸念するなど、両法案に対する賛否両論の意見があった。また石炭火力発電でのアンモニア混焼・専焼の技術的課題等、様々な見地に立ち意見を交わした。
立憲民主党は2050年CN達成に向けて枠組みを作り、長期的プロセスで支援する観点から法案の必要性は否定しないが、新たに施策を進める中で問題があれば再考を促すため、法律の施行状況に関する国会報告の追加や見直し規定の期間短縮を図る修正を求め、与党と協議した。結果として修正は受け入れられなかったが、附帯決議に低炭素水素等の供給・利用に関する施策の実施状況の国会報告やCCS事業を進める過程での立地自治体や関係者との十分な協議等を盛り込んで両法案に賛成し、可決・成立した。
戦略的国内投資と中堅企業の強化に向けて
政府は213回通常国会に産業競争力強化法等改正案を提出した。本法案は近年の賃上げや国内投資環境の変化を捉え、戦略的国内投資の拡大策のほか、従業員2,000人以下の企業を「中堅企業者」と定義し、賃金水準が高く国内投資に積極的な中堅企業者への支援措置等を定めている。
立憲民主党は、認定された産業競争力基盤強化商品に措置される戦略分野国内生産促進税制について、特定分野の産業発展は重要な一方、大規模な減税政策が一部の大企業に偏ることや税制の透明性の確保に課題があることから反対の立場を示した。その上で、経済情勢の変化に対応し、新事業の創出や官民の産業投資の促進による産業の持続的な発展や中堅企業の支援強化を図る観点を考慮し、政府に施策の効果に関する検証を求めること等、留意点について附帯決議を付して賛成し、法案は可決・成立した。
スマホ分野の公正な競争環境整備を議論
政府は2024年3月のEUでのデジタル市場法の本格的な運用開始等を踏まえ、日米欧三極のデジタル市場が足並みを揃えてデジタルプラットフォーム事業者に公正な競争を求める観点から、「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律案」を213回通常国会に提出した。本法案は国民生活や経済活動の基盤となっているスマートフォン分野での公正な競争環境を整備するため、一定の事前規制を設け、イノベーションの活性化と消費者の選択の機会を確保するものである。
経済産業部門では、新規参入等の競争環境整備に当たり、これまで培われてきたセキュリティやプライバシー、青少年保護の在り方の変化に懸念を持つ意見があり、関係団体等と集中的に意見交換を行った。立憲民主党は、これらの懸念が払拭できるよう、法律に基づき策定される指針について、関係する行政機関、有識者、民間事業者等、幅広い関係者の知見を踏まえ可能な限り明確かつ具体的に策定し、セキュリティ確保、プライバシー保護、青少年保護、消費者保護を図る等の附帯決議を付して法案に賛成し、可決・成立した。
視察や意見交換を通じエネルギー政策を研鑽
地域の資源を生かした再生可能エネルギー中心の地域循環型社会実現を目指すうえで、再生可能エネルギーの割合の多くを占める太陽光発電は、使われる太陽光パネルの寿命が20~30年ほどのため、2030年代には太陽光パネルの廃棄の本格化が見込まれる。環境エネルギーPTではその課題の現状とリサイクル技術について理解を深めるため2023年8月、北九州市にある太陽光パネル高度リサイクル施設を視察した。
このほかPTでは浮体式洋上風力の事業化加速の必要性やマイクロ水力発電事業による地域活性化、日本での木質バイオマスに使われるカナダの木質ペレット生産と原生林伐採、アンモニア混焼・専焼や核融合実験炉開発の国際プロジェクトであるITER計画などについて、関係団体や有識者からヒアリングと意見交換を行った。
また将来世代の国民が幸福で豊かな生活を営めるようにするため、環境エネルギー分野の課題を長期的かつ総合的な視点に立って調査を行い、必要な施策や措置について提言を行う委員会を国会に設置する「将来世代法案」について、PTで議論した。