第2章「次の内閣」・政務調査会 各分野の対応
環境・エネルギー(原子力)
パリ協定が世界の平均気温上昇を産業革命前に比べて1.5℃に抑える長期目標を掲げているにもかかわらず、2024年の世界の平均気温は単年とはいえ約1.55℃上昇した。加えて、1日あたり約100種の生物が絶滅しているとも指摘されている。気候変動、生物多様性の喪失、大気・水循環の乱れは深刻な危機に直面しており、地球のシステム全体の安定を脅かしている。
環境部門および環境エネルギープロジェクトチームでは、2024年末に開催された気候変動、生物多様性、プラスチック汚染に関する各国際交渉の結果を確認したうえで、市民団体等から政策提言を聴取し、政策議論を深めた。
1.5度目標に適合する気候変動政策を
パリ協定の2035年の温室効果ガス削減目標(NDC)について、経済団体や市民団体、有識者からヒアリングを行い、議員間協議を重ねた。政府は2025年2月、十分な国民的議論や国会審議がないまま、「2013年度比で2035年度60%減、2040年度73%減」とする日本のNDCを、パブリックコメント結果の公表とほぼ同じタイミングで拙速に閣議決定を行った。国際社会が求める1.5℃目標に整合的、かつIPCCが示した必要な削減経路は世界全体で「2019年比60%削減(2013年度比で66%に相当)」である。世界各地で深刻な気象災害が顕在化する中、将来世代への責任を果たすためにも、現時点で取り得る施策を最大限実施すべきであるとの考えから、立憲民主党は同月に、「日本は2013年度比66%以上の削減目標を設定するべき」との談話を発表した。
また、脱炭素とレジリエンスの同時実現を目指す自治体の取り組みについてヒアリングを行い、再エネ・省エネの促進が環境負荷を低減し、地域経済の活性化や災害対策に資することが確認できた。これらの知見を踏まえ、「分散型エネルギー利用の促進に関する法律案」および「国等によるその設置する施設の省エネルギー・再生可能エネルギー源利用改修等の実施等に関する法律案」や、高いポテンシャルがありながらも法整備が遅れている再生可能エネルギー熱を利用促進する「再生可能エネルギー熱の利用の促進に関する新法」(仮称)について党内手続である議員立法登録を完了した。

野生動物との共生、環境保全と開発
2025年、217回通常国会には政府が鳥獣保護管理法改正案と環境アセス法改正案を提出した。
鳥獣保護管理法改正案は、クマ等が人の日常生活圏に侵入することによる被害を防ぐため、明確な条件の下で市街地等における緊急銃猟を可能とするもので、その点に関しては必要な改正であるが、ハンターの育成強化やクマ等を日常生活圏に出没させないための環境整備等の課題も依然として残されている。また、緊急銃猟の対象となる鳥獣を「危険鳥獣」と表現しているが、これは人の日常生活圏に出没した個体だけでなく、対象鳥獣のすべてが危険な動物であるとの印象を与えかねないため、「緊急対処鳥獣」に改める修正案を提出した。
さらに、「鳥獣」は、英語では「wild life」と表現されることから、けものを表現する「鳥獣」から「野生動物」への用語変更についても修正を提案した。修正は実現しなかったが、不十分な点について委員会質疑および附帯決議等で担保したうえで、本法案に賛成し、可決・成立した。
環境アセス法改正案は、建替等の場合における手続の一部省略と手続に係る書類の継続公開を行うものである。立憲民主党は、改正内容におおむね賛成であるものの、審議において、神宮外苑再開発で提起された環境アセス制度の課題や、事業実施後の環境影響への対応不足等の多くの課題を指摘した。また、「戦略的環境影響評価」について、前回改正時の附帯決議にも記載があるにもかかわらず導入に向けた検討が進んでいないことから、その検討・措置等について修正案を提出した。修正には至らなかったが、立憲民主党の主張が委員会質疑および附帯決議等で担保されたことから、本法案に賛成し、可決・成立した。
水俣病・PFAS汚染対策等公害救済に向けて
水俣病被害者団体との意見交換を、党として、また「水俣病被害者とともに歩む国会議員連絡会」(超党派議連)を通じて行った。2024年のマイク切り問題以降の政府対応は十分ではなく、いまだに被害者として認められず、十分な救済に至っていない。政治による解決に向け、衆議院環境委員会における委員会決議の成立を目指したが、与党の協力は得られなかった。また、政府が進める水俣病特措法に基づく健康調査が当事者の声を反映していないことから、健康調査の見直しを求める緊急提言を2025年4月24日に行った。
また、超党派議連が主軸となって「国による全ての水俣病の被害者の救済の実現に向けた給付金等の支給に係る制度の創設に関する法律案」を2025年6月19日に立憲民主党・無所属、国民民主党・無所属クラブ、れいわ新選組、日本共産党、有志の会、参政党の6会派共同で衆議院に提出した。
2024年7月の現地視察から、PFAS問題に主体的に対応する省庁の不存在、予防原則が適用されていない点などを整理し、9月25日に「国の主導による抜本的なPFAS汚染対策を求める要請」を行い、さらに議員立法「飲料水の安全確保法案(仮称)」の準備を進めることで、生命に関わる水の問題としてPFAS問題の解決に向けて取り組みを前進させた。これらの取り組みや、これまでの国会質疑、党内議論に応えるように、政府は2025年6月末、PFOSとPFOAの2物質について、水道水の水質基準への格上げ等の省令改正を行った。
一方で健康への影響については、高濃度の値が検出された地域の住民が健康不安を訴えても、血液検査等が実施されない現状が依然として続いている。2025年2月には「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」の研究者からのヒアリングを実施し、さらなる科学的知見の蓄積と調査の継続・拡大が必要であることを確認した。
さらに、アスベスト問題については、厚生労働部門と連携し、隙間のない救済を実現するための議員立法の検討を進めた。また、大気汚染による公害健康被害対策について、当事者および支援者から医療費助成等の課題を聴取した。

原子力防災および福島復興再生
2024年8月に発生した、南海トラフ地震との関連が指摘される宮崎県日向灘を震源とする地震を受け、発災当時の原子力発電所の稼働状況等について政府からヒアリングを行った。また、福島県内の除去土壌等の県外最終処分の実現に向けた政府の議論の進展を受け、東日本大震災復興本部および復興部門と合同で政府からヒアリングを行った。